いつもはツンツンしている狩屋が、ふとした時にやたら甘えてくることがある。

放課後で人気のなくなった教室。俺と狩屋しかいないその部屋の中、アイツは猫を思わせるツリ目を俺に向けた。

「なぁ、剣城くん」

「ん?」

「・・・呼んだだけ」

そう言うと、アイツは俺の右隣にある椅子に腰かけた。椅子の軋む音と、微かに床を引きずる音。
隣にあった椅子を俺の座っている椅子にくっつけた狩屋は、俺の肩に頭を預けるように凭れた。それから、ちょこんと左手で俺の服の裾をつまむ。
チラリと視線だけ狩屋に向けると、顔にかかる前髪の隙間から、小さく微笑んだアイツの顔。

(・・・なんつーか、な)

空いている左手で頭をガシガシと誤魔化すように掻いてから、そぅっと右手で狩屋の肩を抱いてみた。
いつもは大げさにビクリと身体を震わせるのに、今回は小さく反応してゆっくりと俺を見つめた。

「どーしたの、いきなり」

「・・・・別に、どうもしない」

「ふーん・・・そういう気分になっただけ?」

クスッとからかうように笑みを浮かべた狩屋は「ま、いいけど」と呟いてまた俺に凭れる。
肩にかかる重みと、すぐ近くから嗅ぎ慣れないシャンプーの香り。かかる重みも、嫌な気はしないのだから困ったものだ。
狩屋の肩を抱いていた右手で、俺よりいくらか低い位置にある頭を撫でる。柔らかい空色の髪が手を動かすたびにサラリと俺の指の間をすり抜けていった。

「んー・・・」

気持ちよさそうに目を細めて俺の手にすり寄るアイツは、まるで本当の猫のように見えた。

「狩屋、」

名を呼べば、うっすらと開いた瞳を俺に向ける。

「好きだ」

落とすように囁けば、アイツはへにゃりとゆるい笑顔を浮かべて、服をつまんでいた力を強め俺を引き寄せると、ぎゅっと抱きついてきた。
背中に回された腕はとても暖かく、狩屋を抱きしめ返しながら、そっと背中も撫でた。

「剣城くん」

「なんだ?」

「あのね、」

「おう」

「すき、だよ」

子どものように短文で訥々と話すアイツは、言い終えると満足げに、嬉しそうに、柔らかく陽だまりのように顔を綻ばせてまた猫のようにすり寄ってきた。



気まぐれは甘い砂糖菓子



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