ゆっくりゆっくり、2人が足並みを揃えて歩く。そこは小高い丘の上。
桃色の髪を二つ結びにした、少女と間違えてしまうほど整った顔立ちの少年と、金色のゆるいウェーブのかかった長髪を結びもせずそのままにし、左目は髪で隠れてしまってるがそれでも綺麗な顔立ちと分かる少年。2人は互いに何も言わず、けれど一緒に歩いていた。
「見えてきましたよ。蘭丸」
「そうなのか?」
「えぇ、もう少しです」
丘の斜面を歩きながら、金髪の少年が隣を行く少年―…霧野蘭丸に声をかける。ゆっくりと歩いているが、やはり斜面が続くと足が辛い。霧野は始めより少し元気を無くしていた。金髪の少年―…雛乃金輔は苦笑する。申し訳ないとは思うが、それでも彼は絶対に連れて来たかった。それから会話が途切れて10分ほど。やっと頂上に着いた。
「つきましたよ」
「やっとかぁ」
霧野は息をつきながら、額の汗を腕で拭う。それを見た雛乃は、鞄から白いタオルを彼に差し出した。
「どうぞ」
「いいのか?」
タオルと雛乃を交互に見て尋ねる霧野に小さく微笑みながら
「えぇ。使ってください」
雛乃はタオルを霧野の手の内に渡す。霧野はにこっと笑い
「ありがとう」
白いタオルで額を拭う。そんな彼を、雛乃は柔らかな微笑みを浮かべて見つめていた。
「それにしても、こんな丘に連れてきて一体何をしたいんだ?」
汗を拭い終えた霧野が不思議そうに言うと、雛乃は微笑んだまま返事をせず、手招きをして彼を呼ぶ。霧野は首を傾げながらも雛乃の隣に並んだ。そして、眼下に広がる世界を見た。
「…!」
丘の下には、名前も分からない美しく花々が数え切れない程に咲いていた。紅、白、黄、青…見ただけでは一体幾つあるか分からない花が、2人を迎えている。
「これを、貴方に見せたかったんです」
雛乃が静かに話始めた。その顔には、柔らかな微笑を浮かべながら。
「ここに初めて来てこの景色を見たとき…貴方のことが浮かびました。一緒に見たいなぁ、そしたら蘭丸は喜んでくれるかなぁ、笑ってくれるかなぁ、あぁでも蘭丸の方が花より綺麗だしなぁ…って」
霧野は何も言わず、雛乃の話に耳を傾けている。彼に渡された白いタオルを握りしめていた。
「自分でも驚きましたが、嫌とは感じませんでした。むしろ心地よく思えたのです。これ程に想える人に出逢えたのは、きっと幸せというものでしょう。そして、その幸せを僕にくれたのは、間違いなく貴方です。蘭丸」
雛乃は、まるで絵本の中の王子さまのように恭しく頭を下げた。それからゆっくり顔だけあげて、優しい笑みを見せる。
「出逢えた幸せを、今ここに。…大好きですよ、蘭丸」
風がふわりと吹き、2人の髪とたくさんの花を微かに揺らす。甘い香りがした。雛乃は少し照れたようにはにかみ、頬を掻いた。
(あぁ、どうしよう)
蘭丸は彼を見つめながら思う。
(この止まらない感情をどうしよう)
涙のせいでぼんやりと霞む視界の中、蘭丸は胸元でタオルを握りしめた。
とりあえず今は目の前の愛しい人を抱きしめるために両手を広げようか。
親愛なる貴方へ
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雛蘭あつい