雨宮を見ていると苛々する。


病気を患っている癖に強い綺麗な瞳、病気でもやり続けて得たサッカーの実力、そして病気に負けない強い心。

おそらく俺が一番苛ついているのは最後の部分。

ゾワリと神経を逆撫でされたように全身に寒気が走り、鳥肌にも似た感覚が起こる。気持ち悪い感覚にまた更に苛立ち、腹の底からどす黒いモヤモヤとした液体が噴き出して腹からじわりじわりと溢れ、頭から爪先までもがそれに満たされる。

あぁ、嫌なもんだ。

「っ…ぁ、…」

だから、俺は今雨宮の体に馬乗りになり首を絞めていた。

誰かが部屋に入って来ても面倒なので鍵は閉めてある。だいたい、俺がここに訪れる必要もないのだが、何となく無性に雨宮に会いたくなる時があるのだ。それが不思議でならないまま、いつも会いに行き、そして苛立つ。

(こういうのを不毛な行為っつーのかな)

雨宮の首に手をかけながら、そんなことをぼんやりと考えていた。本当に死なれても困るから力をコントロールして、息が苦しい程度で絞める。コイツはバタバタと激しい抵抗を続ける。もしかしたらその程度を越えているのかもしれないが、そんなことまで分からないし、正直死ななければそれでいい。

「せん、ぐ……ぅ…はっ…」

雨宮が、苦しい筈なのに何かを言おうと必死に、文字通り必死の覚悟で何かを俺に伝えようとしている。が、悲しくも今回は言葉にならなかった。

(分かんねぇな)

ぐぐぐっと首にかけた手に更に力を込め、顔を近づける。苦しさから細められた目に、俺が映っていた。
今までバタバタと抵抗をしていたコイツの力は、徐々に弱くなっていった。体力はあまりないコイツのことだ。苦しさから、浪費したのだろう。

「苦しい、よな」

分かりきったことを聞く俺は何て馬鹿らしいのか。というかただの馬鹿だろうな。雨宮は口をパクパクとするだけ。もしかしたら、酸素を求めているだけかもしれない。どちらにせよ、間抜けな絵面だな。

「なぁ、雨宮。俺お前を見てるとすっげぇ苛つくんだ。でもな」

雨宮の開かれた口の端から飲み込めない涎が垂れて手に触れる。ベタベタする感覚さえも、今は気にならない。

「お前に会えない時はもっと苛つくんだよ。どうしたらいいんだろうな?」

雨宮の首を一度強く絞めてからゆっくりと手を離す。解放された途端、大きく息を吸い込む雨宮を依然として馬乗りになりながら見つめ、(あぁ、やっぱり苦しかったんだ)と思った。でも、謝る気にはなれなかった。俺が全面的どころか内面的にも悪いのだけれど。謝ろうとは、思わない。

(最低だな。俺は)

内心で呟いてから、胸を押さえながら呼吸をしている雨宮の上から降りた。それから、アイツの口の端についている涎をタオルで乱雑に拭い、雨宮に背を向け部屋を出ようとした。

「ま、って」

その時、後ろから掠れた声がした。驚いてつい振り向くと、体を起こしたアイツが俺の見ている。まだ少し苦しさを滲ませた顔でしばらく俺を見つめ、そして雨宮は。

小さく微笑んだ。

「また、遊びに来て」

「…なん、で…」

茫然としている俺に、アイツは改めてにこっと笑い

「今度は、いろんな話をしたいから」

そう言い放つ。

何て奴だ、と唾を飲み込んだ。
俺はここで、自分の喉がカラカラなのにようやく気づいた。



解らない、君と僕 


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千宮路大和×雨宮増えろ


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