カラリと晴れたある日。雲も無く、空には海の色を映したような蒼が浮かび陽が程よい暖かさを地表に降らせている。時折吹く風からは、名も知らない花の香りがした。

そんな爽やかな日の午後、狩屋マサキはなぜか病院にいた。

彼が通う雷門中の学ランを着て鞄を肩に下げたその姿は、どうやら学校帰りのよう。彼の手には手土産らしきコンビニの袋があり、彼の歩調に合わせてガサガサと騒がしい音を立てた。

一人静かな病院の廊下を歩き、迷いのない歩みで目的の病室に向かうと、ある一室の前でピタリと足を止めた。ドアにかけられているネーム表を確認。間違いない、この部屋のようだ。
狩屋がドアを軽くノックする。

「はーい、」

中から、くぐもった返事が返ってきた。声音からして、元気そうな印象を受ける。返事を受けて狩屋は躊躇なくドアを開けると、一直線に最早部屋の主と化そうとしているその人のベッドの隣に立った。

「雨宮、太陽くんだよね」

「そうだけど…えっ、と…?」

ベッドに上半身を起こして座っていたその人…雨宮太陽は、不思議と戸惑いをその顔と声にありありと浮かべて、狩屋に何と言葉をかけようか迷っていた。

「雷門中サッカー部の狩屋マサキ。ポジションはDF」

彼はニコッと人懐こい笑顔を浮かべて簡単な自己紹介をする。雨宮は、雷門中という言葉に反応し

「雷門中?そっか、そういえばその制服は雷門中のだったね」

「知ってたんだ?」

「うん。天馬が確かそんな感じの着てたから」

「ふぅん。そっか」

狩屋が雷門中の生徒、しかもサッカー部所属だと知り、共通の知り合いが居たことに安堵したのか、先ほどまでの堅い表情が崩れて緩い笑顔を浮かべた。
そんな彼を、狩屋は一瞬だけ目をキツく細めて、すぐに笑顔で接する。

「でも、どうして僕のこと知ってるの?」

今度は不思議のみをその声に含めて尋ねた。狩屋はベッド脇に置かれているだいぶ旧くなった丸椅子に腰掛けつつ

「どうしてって、この前試合したじゃんか」

笑ったまま告げると、雨宮は目を丸くして

「君も居たの?」

驚いたように、少しだけ声を上擦らせて言った。狩屋は笑った表情のまま視線を三秒くらい逸らして、それからもう一度雨宮を見直すと

「あ!いやえっと、…ごめん。言い方が悪かったね。その、あの時は」

「いいよ」

申し訳なさを顔全体で表し、慌てて弁解しようとした彼の言葉を遮り、狩屋は小さく笑う。

「それくらい頑張ったんでしょ?天馬くんと凄かったもんね」

どことなく台詞めいた彼の言葉に一辺の疑いを抱かない雨宮は、むしろ嬉しそうにはにかんで「…うん」と頷いた。

「あんなに身体動かせたのも、楽しいサッカーが出来たのも…凄く嬉しかったから」

「…死にそうになったのに?」

嬉しそうな雨宮に反し、狩屋は若干声を落として強い瞳を彼に向けて尋ねた。

「もちろんだよ。結果としては悪かったけど、でもサッカーをしたことは後悔してない」

狩屋の、聞きようによったらとても意地の悪い質問にも、雨宮は微かに誇らしさのようなものを含んだ笑みを浮かべて答える。

「………わっかんねぇな」

狩屋は俯き、一人言葉を溢す。今までより低い声で短く呟かれた言葉に

「ん?」

雨宮は笑ったまま首を傾げた。

「何でそんな生きるのに必死になれんの?」

今までの人懐こい可愛らしい表情から打って変わり、目付きは鋭く雰囲気もふてぶてしいものに変わって、取っつきにくいものになる。

「お前、なんで生きてんの?」

冷めた表情で気だるげに尋ねられた問いに、雨宮は笑顔を無くしてただ彼を見つめていた。

窓から見える空は、部屋の空気とは真逆にどこまでも綺麗に晴れ渡っていた。



ある晴れた日のこと、君と出会う



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やっと一話です。マサキ殴りたい

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