洞窟というにはあまりに広く、四方を岩で囲まれた空間の中に、世の忍たちには『暁』と呼ばれ恐れられている忍・デイダラとサソリが居た。
2人は会話することもなく、自分の武器を手入れしたり、無意味に武器を生成したりしていた。そんな折、デイダラが

「サソリの旦那ァ。ちょっと顔見せてくれよ」

「あ?何でだよ」

「何でもだよ、うん」

今サソリはヒルコから出て、それの手入れをしている為、デイダラの言う顔とは自身の素顔ということになる。サソリは、自分を見られるのがあまり好きではなかった。ただ、このパートナーは、そんなこっちの理由などお構い無しに催促してくる。全く、腹立つことこの上ない。

「…そんなに見たきゃテメェが動け」

立ち上がりもせず、不機嫌さを全身で表しながら、サソリは手入れを続けて言った。その指は、細いうえに白く、武器を扱うのには似合わないほど、繊細なものだった。
デイダラは不満気に唇を突きだしながらも、ゆっくりとサソリの方へ歩み出す。ザリ、と、砂と靴が擦れる音が響く。
やがてサソリの前にしゃがみ込んだデイダラは、悪戯をする子どものような笑みを浮かべ、サソリに言った。

「オイラにここまでさせたんだ。今からしばらくは、何されても怒んなよ?…うん」

「…テメェ、言うほど何もしてねぇじゃねぇか」

「うっせ。…いいから、抵抗すんなよ」

そう言うと、デイダラは更に距離を詰める。2人の距離は、手を伸ばせば簡単に触れてしまう位近づいた。

(クソ生意気な顔しやがって)

じぃっと見つめてくるデイダラに、サソリは眉一つ動かさず、内心で悪態を吐いた。たれ目ともとれる目で、相手を見る。
ふとデイダラが、音をたてずに手を伸ばし、サソリの頬に触れた。驚くことは何もない筈なのに、サソリは一瞬だけピクリと反応した。否、反応してしまった。

(…苛つく)

自分自身に舌打ちをしたくなり、けれど間近にデイダラが居る状態でそんなことをするわけにもいかない為、心の中で呟くだけに終わった。
デイダラは変わらず触っている。無遠慮に、けれど壊れ物を扱うような仕草で、探るように触れ続けている。

(意外と人肌の感じが残ってる)

「おい、さっさとその涎まみれの汚ぇ手を離せ」

不機嫌な声で、つっけんどんな言い方のサソリは、じぃっとデイダラを見つめていた。けれど、彼はそれが常だったので、特に気にすることもなく触り続ける。

「アンタ、意外にキレーな顔してんだな」

「…はぁ?」

ポロっと溢した言葉に、サソリは呆れた声を洩らした。デイダラ自身、驚いた。よりによって、サソリを綺麗と思うだなんて。

「いよいよイカれたか?だいたい綺麗だなんて感覚、テメェ持ってたのかよ」

案の定、サソリはクツクツと喉を鳴らして笑った。その顔には、たくさんの悪意と嫌味と、本の少しの幼さが浮かんでいる。
普段なら、ムカついて怒鳴っていたかもしれないが、何故か今日は、そんな気にならなかった。
サソリの、目が醒めるように赤い髪に触れて、グイっと自身に引き寄せる。
そして、そのまま口づけをしていた。

「…!?」

眠たげな目を見開き、身を引こうとするサソリが何故か気に喰わず、更に口づけを続ける。傀儡を操られても面倒なので、ちゃっかり彼の両手を抑えながら。

「ん、ぅ…っ」

屈辱からか、先ほどまで見開いていた目を閉じてまだ逃げようとするサソリに、不思議と冷静な思考で

(お互い、らしくねぇなぁ…うん)

と、呟いた。普段のサソリなら、きっとここまで動揺しない。というか、こんなことをされる瞬間、既に相手を殺しているだろう。
そして、自分も変だ。
こういうことをしたいと思ったことは今まで無かった。全てを芸術、爆発に懸けていたから。けれど最近、素のサソリを見ていると、何故か思考がふわふわして、そして今、こんなことをしている。変だと思っても、止めることは出来なかった。ただ、サソリを求めている。

サソリは、逃げようとした。抵抗するが、相手もそれをさせまいと力を籠めてくる。普段ヒルコの中で過ごしているため、力ではデイダラのが強かった。
少しでも気を緩めればもっと流される予感がして、必死になって意識を繋ぐ。傀儡で引き離そうにも、手を塞がれ、指が動かせない。チャクラ糸を繋げても、動かせないんじゃ意味がない。

呼吸が苦しくなって、デイダラに塞がれている手を無理矢理動かし彼の胸あたりを叩く。それにさえ、力が籠められなかった。

「ん……っはぁ…!」

そっと唇が離された瞬間、サソリは息を吸い込む。デイダラとサソリの間に、唾液の糸が繋がっていたが、やがて切れた。

「えーっと…大丈夫か、サソリの旦那?」

珍しく、デイダラが気遣うような声音で話す。が、サソリはそんなのに構わずデイダラをギロッと睨み付けた。

「テメェ…いよいよ俺に殺されてぇみたいだな」

「いやいや!誤解だ、サソリの旦那!だから、ちょっと落ち着けよ…うん」

「誤解だぁ?何がどう誤解なのか、俺が納得するように説明出来るのか?」

「それは…ううん…」

デイダラは言葉に詰まり、少し悩んだ。その時、サソリは即座にヒルコの尾をデイダラに向けて伸ばす。デイダラはヒラリと空中へ避けつつ慌てたように

「俺が悪かったって!謝っからそんなキレんなよ、うん!」

サソリは今だ憎たらしげに睨んでいたが、ふいっとデイダラから視線を反らして、手入れ途中だったヒルコの方に向いてしまった。地面に足を着けたデイダラはその後ろ姿を見つめ、そぅっと声をかける。

「…サソリの旦那?」

「…テメェ暫く俺に触るな。近づくな」

「わ、わかったよ…うん…」

サソリの殺気に気圧されながらも、一度頷き、彼もサソリに背を向けた。
そのデイダラをチラッと横目で確認し、またヒルコに向き直る。先ほどの攻撃に使った尾の手入れをしながら、デイダラにされたことを考えた。苛々して、何人か殺したくなった。けれど、その苛つきは彼だけでなく、自分も原因の一つである。

(…自分の身を傀儡にしたことを少しでも後悔したとは…)

手入れもそこそこに、苛つきをもて余しながらさっさとヒルコの中に隠れたサソリ。内部で1人になり、自身の唇に触れてみる。さっきの柔らかな感触が思い出されて、何とも言えない気持ちになった。

(あーあ…拗ねてやんの…)

カチャッと無機質な音が聞こえ、ヒルコの中に戻ったサソリに対し、内心で呟く。本人に聞こえたら面倒だから言わないが。
時々、サソリは変なところで子どもっぽかった。口論をしたりして、自分が不利になったり苛ついたりすると、攻撃したりヒルコに隠れたりする。

(まぁ、そういう方がサソリの旦那らしくていいけどな…うん)

声を出さずクスクスと笑い、不意にどうしてこんなにも自分が穏やかなのか疑問を抱く。

(え…オイラどうしたんだ?)

さっきの行為にしろ今の考えにしろ、どれも自分らしくないのに驚いて、ムカついて、ポケットに手を突っ込み、手の内で爆弾を作った。それを空に向けて放り投げる。
パーンという音とともに、鮮やかな光を放って消えていくそれに見惚れながら、数分前に抱いた感じや疑問を、自分の思考の奥深くで圧し殺した。



感情を知らない2人



−−−−−−−−−−
うわぁぁ恥ずかしい…これ前に書いて友達に送りつけたんだよな…



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -