放課後あるある〜今まで話していなかった異性と突然の会話〜


ふと忘れ物を思い出して、部活の休憩中にそれを取りに教室に行った。教室のドアまで着くと、中に誰かがいることに気づく。なんとなく息を殺して見つめていると、その人がクラスの中で異彩を放っている奴だと判明した。

名無し名無し。

腰までまっすぐに伸びた艶やかな黒髪を靡かせて、気だるげにものを見る切れ長の瞳を手元の文庫本に向けている彼女は、いつものように口元に微かな笑みを浮かべていた。目は笑っていないようだが。
いつもそんな態度の彼女が誰かと話しているところを、俺は転校してきてから一度も見たことがない。話しかけにくいオーラが出ているからか、みんな彼女を遠巻きに見ていた。
かく言う俺も実はその一人で、一瞬入るのに躊躇したが、何故自分がそんなことを感じなければならないのかとよく分からない不満を感じてわざと大きな音を立てて教室に入った。
すると彼女は身じろぎ一つせず、チラリとこっちを見て、また文庫本に目を移す。

(変な奴だな)

そう思いながら机の中を探り、目的のプリントを取り出す。するとその時

「忘れ物をわざわざ取りに来るとは、君は存外真面目な性格なのかい?狩屋君」

凛とした声が教室に響いた。
驚いて振り向くと、文庫本を読んでいた彼女は依然としてページを捲っている。

「そのプリントは確かに後日提出するが、急ぎの内容ではない。それをわざわざ取りにくるなんて、予想外だったよ」

「・・・・取りに来ちゃおかしいか」

どこかバカにされている気がして、少し苛立ちつつ言葉を返すと「いや?」とすぐさま答えが返ってきた。

「言っただろう、予想外だったと。意外だった、と言う方が伝わるか」

栞を挟んでから、パタンと静かに文庫本を閉じた名無しはゆっくりと視線を俺に向ける。夜みたいに黒い目が真っ直ぐに俺を見つめてきて、ちょっとだけたじろいだ。

「気を悪くしたかな。もしそうだったら申し訳ない。どうにも昔から、私は人を苛つかせることに長けているらしい」

心底不思議そうな口ぶりで話す彼女は、小さく頭を下げた。その拍子に、肩にかかっていた髪がさらりと前に流れる。

「部活中にも関わらず忘れ物を取りに来るのが意外でね。つい言葉が出てしまったよ」

「・・・・あっそ」

ふいっと視線を背けたら、彼女はクスリと笑い、それから時計を指差した。

「時に狩屋君。時間は大丈夫なのかい?」

「え・・・うわ!やべぇ!」

彼女に促されるまま時計を見たら、休憩時間終了まであと5分しか無い。グラウンドまで距離があるから、もう行かないと間に合わない。
バタバタと音を立てながら走って出て行こうとする俺を見、彼女は可笑しげに笑った。なんとなくだが、いつもの薄ら笑いよりも幾分か明るく見えた。

「狩屋君、」

「あ?ンだよ!」

「無茶をせず、頑張って」

知らぬ間に座ったまま椅子ごと俺の方に身体を向けていた名無しが、にっこりとほほ笑みながら手を振った。ちゃんと笑ったら、意外と可愛らしい顔になるらしい。
不覚にも言葉に詰まった俺は、捨て台詞のように

「わかってるよ!」

それだけ叫んで、教室を後にした。

「・・・面白い人だな」

俺が去った後、一人教室で彼女がそう呟いていたのを俺はまだ知らなかった。



―――――――

わけわかんなくなっちゃった


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