text | ナノ



「レヴォンのリミットブレイクを発動!」


 高らかに宣言された終幕の合図とも言えるそれに、一瞬ナオキの足が後退する。だが怖気付いてはいられないとすぐに表情を引き締めて、テーブルを挟んだ先のレオンを見据えた。その瞳はまだ諦めておらず、寧ろ楽しそうなものだった。ナオキの闘志が死んでいないことを悟ったレオンは不敵に口端を歪めて笑った。


「諦めまいとするその心意気は何よりも大事で気高いものだ。尊敬に値する」

「あ?」

「だが」


 これで仕舞いだと言わんばかりにレヴォンの攻撃がガントレッドバスターを貫く。受けきれなかった余波を身体に食らった気がしてよたつくナオキ。震える手で捲ったダメージに、トリガーはない。


「……っだぁー!!」


 悔しそうに雄叫びを上げたナオキにいいファイトだったよ、と横で見学していたアイチのフォローが入る。実際リミットブレイクの発動圏内までレオンを追い詰めていたのは確かであるし、手札の枚数も拮抗していた。終始どちらが優勢だったかと問われればどちらもであり、見応えのあるファイトであったことには間違いなかった。


「まさかレオン様があそこまで押されるなんて…」

「前に福原で見た時よりも強くなってるかもねー、ちょっとだけ」

「ナオキ君、毎日ヴァンガードに一生懸命だから」


 例え大きく運の絡むゲームだとしても、本人の努力やデッキ構築能力がなければそれを呼び込むことすらかなわない。ここまで善戦できたのは偏にナオキ自身の普段の頑張りによるものが大きいと言っても嘘ではない。彼が最大限に近い力を発揮できたのも、デッキがナオキのそんな意気に応えた形なのだろう。


「どうやら貴様は、自分のユニット達に好かれているようだな」

「そうなのか?」

「そうでなければ盤面も潤いまい。除去がメインのなるかみで其処まで展開できるのだからな」

「へぇ……」


 照れたようにガントレッドバスターの表面をそろりと撫でる。次も頑張ろうな、とはナオキが心の内で囁いた意気込みなのか、それともガントレッドバスターが自身の先導者に語りかけた言葉なのか。


「ねぇ、次は私とファイトしない?」

「お前か?いいぜ、女子だからって手加減はなしだ!」

「ジリアンずーるーいー!私もジト目君とファイトしたーい!」


 右にジリアン左にシャーリーン。双子に腕を引かれたナオキは変にどぎまぎすることもなく、いつもの調子で片付けたばかりのデッキを広げ始める。切り替えの早さは彼の長所だ。姉妹に向けて見せたくしゃりと人懐っこい笑みに、アイチとレオンは視線を交わして穏やかに微笑んだ。

 結局ファイトはどちらもナオキの負けに終わったが、ダメージ差や盤面を見る限りでは相当いい勝負を繰り広げたのであろうことはこの場に居ない者がテーブルを見ても瞭然だった。年下であろうジリアンからファイトの雑さを指摘されて狼狽するナオキを遠目に見ながら、レオンはアイチに話し掛ける。


「石田ナオキだったか、いいファイターになるだろうな」

「ナオキ君はすごく真っ直ぐなんだ。負けたら悔しい、勝ったら嬉しい。それを全身で表現するのを見てると、僕まで楽しくなってくる」

「それはファイトをしていてよく伝わってきた。ただの熱血馬鹿に見えて、なかなか素直で面白い奴だ」


 こちらまでつい熱くなってしまう、と手のひらを見て呟くレオン。彼の感じたそれはアイチも薄々理解していた。ナオキの一挙一動は自分が初心者の時とよく似ていて、けれどどこか反対のような気がした。例えばユニットに目を輝かせたところだとか、各上の相手に怯まず噛み付くところだとか。そんなナオキを見るアイチの眼差しはとても優しく、まるで子を見守るような慈しみが見てとれる。彼の先導者になれたことに、誇りと嬉しさを感じていた。


「おい蒼龍レオンっ、もっかいファイトだ!」

「……いいだろう」

「今度は勝つぜ!」


 ジリアンに嗜められシャーリーンに腕を捕まれた(ある意味役得な)ナオキは、現状打破のためのようでその実本音十割の台詞をレオンに向ける。行ってきなよ、とアイチの柔らかな後押しよりも先に、レオンは壁に預けていた背をゆっくりと起こした。



***
本物回のその後イメージ。
しかし環境はこの空白の時を経てテトラ蒼嵐になってしまったのであった…



ひだまりで泳ぐ犬/休憩

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140521 修正
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