text | ナノ
何時もよりかは数段強い日差しの元、巨人族の少年であるマロンは降り注ぐ光を一身に浴びながら不快と言わんばかりに細められた目を更に細めた。
「まったく、ペッターの奴…」
幾ら神聖国家と呼ばれ栄えるユナイテッド・サンクチュアリとはいえ、恵みの太陽を如何にかする事は出来ない(というよりもそんな事をしたらまずい)。自分が着込んでいる事を考慮せずとも思わず唸りたくなるレベルの日差しに晒されながら、蜃気楼の見え出した向こうへと歩いていく。
漸く辿り着いた其処には、樹齢何百をとうに越した大樹。緑の綺麗に茂ったその樹の根元では、紅茶色の髪をお団子に結った少女――スターダスト・トランペッターがこれまた愛らしい寝息を立てながらすやすやと昼寝をしていた。マロンは重々しく溜め息を吐いてから、その手に持った蔵書を容赦なく彼女の頭に向かって落とした。
「うぎゃぁああんッ!!?」
寝起きの呆けた声の混じった奇声が高らかに叫ばれ、思わず耳を塞いだ。
「なっ、いきなり何するのよ!痛いじゃないッ!」
「…呼びつけておいて、当の本人は昼寝とはね……」
「うっ…で、でもでも!だからって本落とすなんて!どさどさって!どさどさぁっていったいんだよ!!」
「はいはい」
真面目に聞きなさいよ!と愛用のトランペットでぽかぽか叩くが、体格差故か全くダメージになっていないという事を彼女は理解しているのだろうか。幼子よろしい癇癪もどきにやはり溜め息を吐かざるをえないマロン。その態度が気に入らないのか、トランペッターはますます頬を膨らませるばかり。
「で、用事って何?僕勉強してたんだけど」
「いっつも勉強勉強って!わたしとの約束と勉強とどっちが大事なの!」
「そりゃあ、勉強だろうね」
勤勉一直線なマロンがそう即答すれば、もうちょっと悩んでよ!とまたトランペットでの殴打が始まる。
「ちょ、落ちついてってば。僕ペッターに呼ばれたから来たんだからね」
「……むー」
正論を述べるとふくれっ面で数歩下がるトランペッター。が、地味な連続攻撃が止んだ事で一瞬気が緩んだマロンを見るなりにやぁ…と悪戯っ子の笑みを浮かべ、
「っ、もーらいっ!」
「っ!?」
小柄な体躯を生かしてマロンの懐に潜り込み、脇に抱えられている分厚い蔵書を引っ手繰るように奪った。マロンが反応しきれないまま、するすると木の上に登っていくトランペッター。たんっと華麗に着地した彼女の手にはあるべきものが無い。
「っぁぁぁああああ!!」
「へんだ!マロンが相手してくれないからよーうっ!」
唯一無二の、それこそ宝物に等しい品をあろうことか木の上に上げられるだなんて。鳥にでも突っつかれてたら如何しようと思考が絡まる。未だにかにかと笑うトランペッターを今すぐにでも殴りたい衝動に駆られたが、過去に実行された蔵書窃盗に比べればまだ可愛いものだと思えば、自然と溜め息のみで済む。 それが彼女の悪戯にかなり毒されてしまったが故の決断になっているという事には、彼自身気づいていないだろう。
「……もういいからさ、目的を話してくれよ。まさかコレする為に呼んだとか言わないよね…?」
「違うよ、マロンの馬鹿!」
鈍感さんなんだから、と年下のトランペッターに言われ若干顔を顰める羽目になったが、とりあえず保留。何だか体重が下にかかった感覚がしたから。 そうなったのがトランペッターに手を引かれているからだと、自分より数段低い身長のお団子頭と額のプロテクターを見て気付いた。
さっきまでトランペッターが昼寝をしていた木陰に連れ込まれてぐっと引っ張られる。突然力を加えられた事で不意を食らったマロンは、尻餅をつくようにして木の根元に座り込んだ。デコボコした根で打った箇所に痛みを感じながら、繋いだままの手を離さないトランペッターに文句の一つでもつけてやろうとして。
「一緒にお昼寝っ!」
…つけてやろうとして、その純粋な笑みを見てしまったが故に、言葉が詰まった。子供らしさを十分に残した、言葉のままににへら顔を浮かべるトランペッター。さわさわと葉が掠れる音が少し遠くに聞こえるのは気の所為だろうか。暫く沈黙が続いた後、先に折れたのはやはりマロンだった。
「…………はぁ、」
「へ?ちょっと、なんで溜め息吐くの?」
「……いや、暑さで如何にかしたお馬鹿も居るんだなぁ、って思って」
「…それもしかしなくてもわたしの事でしょ」
「おやすみー」
「マーローンンンッ!!」
反対を向いてトランペッターの攻撃を背中に受けながら、まぁ偶にはのんびりするのも悪くはないか、と思った勤勉少年であった。 眠りを覚える子供 *** マロトラひゃっほい。 駄々っ子ペッターと冷めてるようで優しいマロン。
その内簡単な設定でもあげときたいところ。
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