text | ナノ


櫂ミサ前提


「なんつーかさ、櫂がねーちゃんに告ってなきゃ、俺にもワンチャンあったんかねぇ」


帰り道ふと湧いたもしもの過程を呟いてみると、隣の櫂がわかりにくく目を瞬かせて俺を睨んだ。威圧感と嫌悪感丸出しの視線に冗談だとおどけて返してはみるものの、俺の心は複雑なままだ。


「お前から戸倉になら兎も角、戸倉からお前に好意があったと思うか?」

「ライクの方なら満々に自信持って言えるぜ!」

「だからお前は駄目なんだ」


割と無茶苦茶言ってみたけど、相手が相手なせいか乾いた笑いも同情もなかった。ぐ、と引き下がって櫂の言葉を反復する。そういえば俺は結構ねーちゃんにアピールしてたつもりなんだけど、一瞬たりとも揺らいだりしなかったように思える。あれは櫂にしか気持ちが向いていなかったからなのか、俺が男として意識されてなかったからなのか(後者ならそれはそれで泣きたいけれど)。でも櫂が強引にアプローチしてたところなんて見た覚えないしなぁ。


「俺からしたら、ねーちゃんが櫂を選んだ方が有り得ないっつうか」

「ほう」

「そりゃお前イケメンだけどさ?無口だし雰囲気怖いし喋りだしたかと思えばヴァンガードばっかだし。正直中身だけなら俺の方が勝てる自信あるわ」


あれ、言ってて悲しくなってくる。俺だって顔はいい方だし!櫂と並んでも遜色ないし!多分!


「…………はぁ」

「あからさまに溜め息吐くなよ!」


焦る俺に呆れたような視線を寄越す櫂。これがねーちゃんの前だともう少しぐらい表情豊かであってほしいと思う俺は果たしてどっちの味方なのだろうか。付き合いの長さのせいか櫂を擁護する気持ちの方が強いのも問題かもしれない。だからこんな現状でも顔を顰められないんだな、俺。


「僻んだところで事実に勝るものはないぞ」

「抉っちゃう?そこで俺が逸らそうとしてる現実抉っちゃう!?」


騒ぐ俺を横目にふん、とこれ以上この話をするつもりはないというように足を早める櫂を慌てて追い掛ける。どこか大きく見える背中に負けて清々してるような、悔しいような、寂しいような。ぽっかり穴の空いた感覚の左胸の寒さを忘れるように思いきり地面を蹴ってみた。


「お前は馬鹿だ、三和」


先を歩く櫂が憂いた眼差しで空を仰いでいた。何を呟いたかまでは流石の俺にもわからないけれど、少しだけ隙間が埋まる暖かさを嵌め込まれた気がした。



手折った花は今でも君の元で咲いているか

***
親友と好きな子がいっぺんに離れちゃって寂しい三和君。
ミサキさん取られちゃって悔しいとか櫂くん取られちゃって悔しいとかじゃなくて、二人が自分抜きで共有の世界を作っていってしまうことが辛い感じ。



130607
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