text | ナノ
※オバロがちったい ※当たり前のように現実世界
「主、」
ばふんと小動物サイズの重みとぬくもりが布団の山を潰す。そのまま両腕をぱたぱたと泳がせると、ベッドの住人はスプリングを鳴らしながら怠そうに身体を起こした。あまりすっきりとした目覚めではなかったようだ、目をしばたかせている。
「……………何の用だ」
「寝起きから若者が厳めしい顔をしているものではないぞ。外を見てみろ」
未だ目を細めたままの櫂は、オーバーロードの短い手に促されるままカーテンを退け窓の外の景色を見た。 冬場特有の雲にかかった空から白い毛玉のような塵がふわふわと舞い落ち、下層の住宅街の屋根に薄く積もっていた。道路にはタイヤの跡が見受けられるので、まだ降り始めてそうは時間が経っていないらしい。 それが雪だと判断できた頃には、既にオーバーロードがテレビの電源を入れチャンネルを朝のアニメ番組に回していた。
「…ニュースに回せ、天気予報だ」
「我の朝の十分の楽しみすらも奪おうというのか」
「それはまた午後に再放送するだろう。大人しくリモコンを渡せ」
「この時間に観るからこそ愉悦を味わえるのだ」
何を年寄り臭いことを、と心中でぼやきながらその人形のような丸っこい手中(※但し爪は鋭利)からリモコンを取り上げた。チャンネルを弄っている間足元のオーバーロードがぽかぽかと櫂の脛や足の甲を叩くのを無視しながら馴染みの朝番組に設定を回す。 まだ天気予報の始まる時間では無いが、左上に表示されているデジタル時計の隣に小さく地方の簡易予報が出ているだけでも有り難い。雪だるまの上に晴れのマークが乗っかっているのを見る限り、長くは降らず積もる心配もなさそうだった。この分ならば、自称親友のお気楽男も雪合戦をしようなどとは言い出すまい。
「主、この白い玉が二つのバケツは何者だ」
「外に降っているあれを丸めて作ったものだ。バケツその他は装飾だな」
「おお…!」
オーバーロードの黄色い両目がくりくりと期待に動く。しまったと自身の発言の軽率さを悔やんだ頃には遅く、二頭身の赤い竜は特製のマフラーを器用に巻いて玄関で櫂に催促をし始めた。
「今何時だと思っている」
「貴様の落ち着きぶりからして、あの白いのは長くは降らぬのだろう?我はあの丸いのをこしらえてみたい」
「面倒だ、諦めろ」
「食事を作るのと大差はないだろう、ほら」
「何が『ほら』だ」
短い攻防に両者はじりじりと精神的な距離を詰める。この横暴な赤い竜は一度こうと言い出したら聞かない。微妙な期間と距離間の付き合いからこういう場合は観念するしかないと学んでいる櫂は、最初こそ対峙するものの、やがて大きく溜め息を吐いた後むんずとオーバーロードの首根っこを掴んだ。まるで猫のような扱い方である。
「ふん、漸く我と遊ぶ気になったか凡人め」
「……………」
「ぐえっ」
未だ手の内で喚くオーバーロードのマフラーをきつく締め直してやりながら、コートを一枚掴んで部屋を出る。
「おい主よ、表情が緩んでおるぞ」
そんな筈は無い。
*** ちったいオバロと櫂くんの冬。拍手文でした。
俗物に疎いオバロって可愛い。言葉遣いは古めかしいのに中身駄々っ子なオバロ可愛い。教育番組のお兄さんに合わせて身振りするのが楽しいけれど櫂くんにそれを見られて必死に言い訳するオバロ可愛い(此処までイメージ)
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