text | ナノ



※デスレックスがちっちゃく実体化



『ユーウータァッ!!』


自分の名前を呼ぶ舌足らずな子供のような声音と腹部に感じた鈍い重みに、井崎ユウタは低い唸り声を上げながら目を覚ました。悶絶しながら携帯を手に取り開けば、まだデジタルの時刻は五時を少し過ぎただけ。雨戸とカーテンの閉まったままの薄暗い部屋の中で井崎の名前を呼びながら布団を引っ張る小さな影に、寝呆けた井崎の声がかかる。


「…なんだよぉ……まだごじだぞぉ………」

『「もう」ごじだぞユウタのばか!今日はいっしょにたちかぜデッキ組むってやくそくしたじゃん!』

「早過ぎるだろぉ……」


新しいパックが発売し、井崎の愛用するクランであるたちかぜが単品で組めるようになってから数日。漸く日の目を見ることができるようになった相棒の「暴君デスレックス」は、発売前からテレビのコマーシャルを見てキャッキャと喜んでいた。二弾のときもそうだが、やはり仲間が増えるのは嬉しいらしい。

一度起きてしまってはなかなか二度寝にありつけない。がくりと項垂れながら仕方なく温もりの残るベッドに別れを告げ、いつもの私服に袖を通す。その間もきらきらした視線を自分に向けてくるデスレックスに苦笑しつつ、この日を待ち侘びていたのは彼だけではないと思うと何だか気分が高まる。
手持ちのカードと先日購入しておいたパックやシングルを床に広げて、二人で隣り合わせに座る。自分と良く似た風貌のユニット達が描かれたカードを見て、うわぁ、ふぉお、と感嘆を漏らすデスレックス。


「とりあえず、メインのユニットは…」

『僕でしょっ!』


自分のプリントされたカードを持って高らかに言う。元よりそのつもりでいた井崎は「暴君デスレックス」を四枚集めて手元に纏めておく。ファーストヴァンガードは「ドラゴンエッグ」で決定だから、それも併せて。


「トリガーは全部四枚ずつだからいいとして…シールドンは何枚ぐらいが妥当だ?」

『二まいぐらいでいいんじゃない?グレード0いっぱい入れても、後半ガードにしか回せないよ?』

「能力がついてるわけじゃないし、そんぐらいでいっか」


ぱらぱら、と「鉄壁竜シールドン」を二枚確保。


「グレード1はどうすっかなぁ」

『ノアとスカイプテラは四まい!』


両手に四枚ずつ「ソニックノア」と「翼竜 スカイプテラ」を持ちながら、デスレックスが足をぱたぱたさせて井崎にカードを示す。癖のないバニラカードと再コールできるスカイプテラはとても強力。枚数は置いておくとしても文句なしの採用だった。


『スパークも入れてあげたいんだけどなぁ。パワー弱いかな?』

「キャノンギアと並べればいいラインになるけどさ。でも可哀想だけど、やっぱりパワーが引っかかっちゃうんだよなぁ…」

『うー…でも、二枚ぐらいならなんとかできない?』

「…そうだな。丁度アークバードも二枚あるし、一対一で入れておくか」

『やったぁ!よかったねスパークっ!』


赤い怒竜を名に冠すユニットに笑いかけるデスレックスに、井崎は自分まで嬉しくなる感覚を覚えた。
その後も、パワー重視の「砲撃竜キャノンギア」を入れたり、シールドンの回収とインターセプトを考慮して「突撃竜ブライトプス」の枚数を調整したり、途中でエスペシャル枠が欲しいと呟いたり、「餓竜メガレックス」のフレーバーテキストを見たデスレックスがスカイプテラやドラゴンエッグを守るようにカードを持って逃げたりと、いろいろと一騒動あって。


「あと三枚は、お前の補助も兼ねてブラストザウルスを入れて…と、」

『うわぁい!かんせーい!!』


五十枚きっちりに収まったデッキケースを掲げて、デスレックスは喜ぶ。自分が生まれてからやっと訪れた活躍の時。これほどまでに嬉しいことがあるだろうか。はしゃぐデスレックスを見ていると自然と自分も嬉しくなってくるのだから、相棒とはよくいったものだと思う。


『ユウタッ、これからもっとがんばろーなっ!』

「おう、当たり前だろ」

『まずは「だとーアルフレッド」!』

「その前に、試運転な」

『ぎゃうっ』





かがやけたちかぜ!



***
井崎アンソロに寄稿させて頂いたものに手直しを加えたものです。

三弾発売時環境で書いたものなので、まだトリガーは増えていないしラプトルさん達も居ません。プールが…浅い…
この環境で組んでいた自分のデッキを参考にしていたり。



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