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「おいバンシー」


そんな時だった。何処からともなく自分を呼ぶ、聞き慣れた声。ゆるりと髪を揺らしながら振り向けば、バンシーよりも薄い色素の髪を三つに束ね青を基調としたコートを羽織る、文字通り「海賊」の風貌をした女。
警戒したゴードンが懐から剣を取り出そうとするが、それをガンスロッドは止める。何故だという彼の視線を流して、目の前の彼女達を見た。


「……ルイ、ン…」

「ったく、落ちたなら叫べよ。いつもキャンキャン叫んでるだろ?」

「…ごめん、なさい……」

「…別に、謝らせるつもりで言ったわけじゃねえよ。これからは気をつけてくれよな」

「ん、……」


ルインと呼ばれた女性は盾を持っていない右手でバンシーの頭を乱暴に撫ぜる。何処か嬉しそうに微笑む彼女を見て、仲間なのだろうと理解できた。
バンシーを妹のように叱り諭したルインは、次に二人の騎士を見た。深紅の瞳が射抜くように、見定めの意味をを孕んだ視線が向けられる。未だガンスロッドはゴードンの突撃を抑えたまま。彼の手さえ退けば、この真理の騎士はすぐさま彼女を斬りかかりに行くだろう。まるで狂犬を抑える飼い主のようなその状況に、ルインはくくっと喉で笑った。


「…アンタ等がうちのバンシー助けてくれてたみてえだな。礼は言っとく」

「其処まで大層なことをしたわけじゃない」

「へぇ、ロイヤルパラディンの騎士様の中にも普通に返してくれるのが居るのか。俺みたいな奴には無視なりもっと冷たいもんと思ってたのによ」

「相手が誰にせよ、礼を述べられたから返答したまでだが」

「それならいいけど、アンタの同僚はいきり立ってるみたいだからさ」


言ってゴードンを見るルイン。こいつは例外だという意味で頭を横に振れば、今度は鼻で笑った。


「ははっ!騎士ってぇのはもっと厳格な奴ばっかだと思ってたけど、意外な掘り出し物もあるってわけか」

「悪態を吐く為に来たのなら、早々に引き取り願いたいのだが」

「言われなくともコイツ連れて帰るっつーの。おら行こうぜバンシー」


服についた土を軽く払って、ルインの手に引かれて連れて行かれるバンシー。ちらりとガンスロッド達を見たその赤碧玉は、何処か寂し気に揺れていた。気づけばガンスロッドは一言、「おい」と彼女達に呼び掛けていた。ルインとバンシーの髪が揺れる。ゴードンは驚いたように同僚を見た。


「…また、茶なり菓子なり欲したならば来ればいい。私は茶は嗜むが菓子はあまり食わんからな、片付けに来てくれると有難い」


その素っ気無いようで気遣いの含まれた言葉に、バンシーはぱぁっと顔を綻ばせ、何回も頷いた。いつもより嬉しそうに明るい笑みを振り撒く彼女を見て、ルインは内心ほっとしたような、安心した気持ちが湧いた。(何だ、コイツちゃんと、俺等以外にも仲良い奴居るじゃん)彼女の姉のような存在であると自称するルインは、この数時間で視野を広げたバンシーに嬉しさと若干の寂しさを感じながら、しかしその明らかな成長に目尻を緩めた。


「んじゃ、そん時は俺も混ぜてもらうわな」

「……好きにしろ」


それだけ言って瞳を閉じる孤高の騎士。もうそれっきり彼女達に言葉がかかることも引き止められることも無かった。
停船させてある船着き場まで歩を進めながら、バンシーとルインは呟く。


「…此処、おもしれぇな」

「……うんっ、」





境界線の取っ払いを試みた結果
(ガンスの馬鹿!あんなこと言ったらアイツ等また来んじゃねえか!)
(…別に茶飲み仲間が増えただけだろう)
((あの二人は別の意味でガンスちゃんに会いに来そうだから恐いんだよ!))
((今度はいい茶葉でも貰ってこようか))



***
予想より長くなってしまった…
一度やってみたかった「萩谷さんの絵のキャラでわいわい」ができたので満足。ルインちゃん居るけど気にしない。好きです俺っ子!

バンシーちゃんは区切りの多い片言っ子。感情表現に乏しい箱入り娘なら尚良し。ちなみに赤碧玉と書いてレッドジャスパーと読みます。

ゴードンさんの無自覚もやもやは…まぁ察してやってください(投げ遣り)



130212
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