text | ナノ
そろりそろりと自分よりも細く無防備な手を掴もうとして、失敗。何度かそれを繰り返すも、どうしても手を握るまでに至れない。これは単に彼がチキンなのか、はたまた真意を悟った彼女の意図なのかわからないままもう一度手を伸ばすが、うまく躱すように腕を振られた。
普段PSYに居る時と変わらない服装のコーリンと共に歩く町は少しずつ冬の様相を見せ始めていて、どの店も暖かそうな服や飲食品をウィンドウに並べている。コンビニの中華まんフェアの広告を横目にマフラーだけを巻いた軽装備のアイチは、先を歩くコーリンを数歩後ろから慌てて追い掛けた。 その時丁度視界に映った空いた手に、如何も視線がいってしまう。外気に晒されている手はどちらのものも冷たいのであろう。手袋でも持ってくればよかった、とぼんやりアイチは考えてから、またコーリンの手を見る。握ってみようか、どうしようか。ぐっぱぐっぱ。準備運動はだけは万全なのだが、その先には進めない。 先ほどからの何度目かの試みで辛うじて指先同士をこつんと触れ合わせることには成功したものの、今度は前のめりになりすぎていた所為でつんのめってしまった。
「あっ、…」
「……何」
思わず洩れた声に、コーリンが訝しんだ様子で立ち止まった。それに併せて不機嫌気味に揺れていた金髪の動きも止まる。アイチよりも背の高いコーリンが彼を見下したような視線になってしまうのは仕方のないことだ。
「何転びそうになってんのよ」
「あ、あはは…ごめんなさい……」
「別に謝らなくていいから」
相変わらずなつっけんどんとした返しに、本意は悟られていないことを感じたアイチは曖昧に笑って流した。どうも彼女の前ではおどおどしたいつもの自分に戻ってしまい格好がつかない。
(ぼ、僕だって男なんだから…!)
再度意気込んで生まれた小さな勇気を振り絞ったアイチは、まだ先を歩くコーリンに駆け寄る。そこにさっきまでの悩み情けない姿は、もうなかった。
「お手を拝借」 (コッ、コーリンさん!) (………) (あのっ、あっ、あの手!手を繋ぎたい……ん…です…) (…………待ってた) (へ?) (…何でもないわ)
*** ちょっと季節外れ感が否めませんが。 やっぱりお見通しだったようですっていう。アイチくんから誘って欲しいコーリンちゃんでした。
130212
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