text | ナノ



ぶるり、と何気なしに肩が震える。


夏の暑さなど微塵にも感じられない冬の装いを纏った風が吹き込む度、ミサキの身体は寒さを痛感した。ましてや店の入り口で店番をしている身なので否応にも冷風が当たる。膝掛は常備しているものの、ブレザーでは少々心許無い。

季節の移り変わりは自然的なものなのでお客のようにけちはつけられないが、街路樹が着込んでいた葉を色づけぱらぱらと散らす様は素直に綺麗だと思える。しかし景観と肌寒さに感じる感情は真逆なのである。


ヴィン、と自動ドアの音と一緒に、またひんやりと店内に充満する風。居たくなくなる程では無いが居るのに支障を来す寒さにいい加減毛布でも持ってこようかと思った矢先、レジに影が出来る。

「戸倉」

店の常連といっても過言では無い男の櫂が、ぬっと威圧感と共にミサキの前に立っていた。普段と変わらない服装の彼は寒くはないのかと思いながら、何時も買っていくパックを手に取ろうとして。

「寒いのか?」

動いた際に見えたらしい膝掛けを一瞥して、櫂。そうだという視線を飛ばしてからきっちり五パックをカウントして金額を受け取る。釣りとパックを渡し終えて引っ込めようとした手を、徐に捕まれた。手首に感じる指先の冷たさが辛うじて其処に存在する熱を徐々に拾っていく。

「(つめた…)」

眉を顰めるもミサキの表情は見ていないらしい。心中を悟ったのか、ぱっと手を離された。かと思えばごそごそと青のブレザーを脱ぎ出すものだから、それこそミサキはぎょっとした。

「ちょっ、アンタ何して、」
「貸してやる」

有無を言わさず突き出されたそれを受け取るしか選択肢がないみたいだった。渋々受け取って肩に羽織れば、ほんのりと石鹸の香り。まだ残る自分のものではない温もりがやけに気恥ずかしい。馬鹿、と呟けばそれを狙っていたかのような櫂の不敵な笑み。…思わず溜め息が出た。






正直者の迂回ルート



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〜0209までの拍手文でした。

上着貸すのってロマンな気がする。


120209

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