「はぐれた」、と自覚をした頃には、右手に繋がれた華奢な手の人物が隣に立っているだけだった。
「………」
「………」
お互い無言を貫きつつも、繋がれた手を離す素振りは無い。
ちらりと徐に櫂が隣のミサキを見やった。普段着飾る事の無い彼女は今、淡く化粧をし華やかな着物を羽織っている。何時も下ろされている髪も綺麗に結われ飾りがついている。見慣れた制服とはまた違う正装に、たまに見かける私服よりも希少価値を感じているのは嘘ではない。
がやがやと初詣に来た人々の賑わいが止む事は無い。
一緒に来ていた筈のアイチやカムイ、シン達の姿は何時の間にか見えなくなっていたのだが、それを「はぐれた」とみなしたくなかった二人はその考えを消し探し回ろうとした。
しかし元来人波が苦手な部類の自分達がこんな場所でうろうろと長時間ふらつく事も出来ず、こうして比較的人波の少ない石畳の通路の脇で発見されるのを待っているのが現状だった。
「……足は大丈夫か」
漸く絞り出した言葉は素っ気無く、されど何処かミサキを気遣ったもの。履き慣れない下駄で此処まで歩いてきたのだから多少なりとも疲労を感じているであろうという見解は間違っていなかったらしく、ミサキはくるりと足を回した後「ちょっとだけ」と漏らした。
だからといって如何にか出来るわけでもなく、櫂が出来る事といえば辺りに座れる場所があるか探すぐらいの些細な事。当然祭り時でもない神社に簡易椅子などある訳も無く、辛うじて階段がある程度。そんな所に着物姿の女性を座らせる程無神経な性格をしているわけではない。
ならば。
「帰るぞ」
「えっ、ちょっと」
ぐい、と引いた方向は境内とは真逆の来た道。戸惑うミサキの声を後ろに、ずいずいと人波を割って逆走する。
「ねえ、アイチ達如何するつもりっ、」
「後で連絡でも入れておけば大丈夫だろう」
「お参りは、」
「一時避難だ。それに此処でなくとも、初詣くらい他の神社で出来る」
確かに此処が一番近い場所というわけじゃないけれど。
言いかけて、繋がれた手の先の彼を見た。無愛想で人と関わる事の少ない彼の、精一杯の自分に対する配慮。何も言わない代わりに、その後ろ姿で全てを悟らされた気分になる。口に出してくれればわかりやすいのにとは思うものの、それをしないところが彼らしいのだ。コミュニケーションには困るけれども。
「足の事訊いといて、結局歩かせるんだ」
雑踏とガヤに紛れて聞こえないだろうとたかを括っていたその一言。くすりと一人微笑んでいると、不意に櫂が立ち止まった。つられて(というよりも必然的に)ミサキも止まる。からん、と下駄が石を叩く音。前方から嫌に鮮明に聞こえてきた低音にどきりとさせられる、だなんて。
「何なら、おぶっても構わないんだがな」
恥ずかしがり屋の精一杯***
此処で甘いベタな展開のように横抱きにするって言えない櫂君はとんだヘタレツンデレだと思いますbyアイチ
おんぶするのが櫂君の最大限の照れ隠しでありデレであると言い張りたいです。「背負う」じゃなくて「おぶる」って言う方が可愛いですよね。
視点がコロコロ忙しいかもしれませんが、雰囲気で感じ取って頂ければ。落ちにだけ萌えてもらえれば…!
お正月記念のフリーでした。
120201 修正