text | ナノ




年頃になれば化粧の一つにも興味を持つもので。それはミサキも例外ではない。外を歩く度に着飾った同じ年代の女性を振り返る事が多くなったし、化粧品のコマーシャルにふと視線が移るのも最近ではよくある事。


「化粧」というよりも「綺麗になる」事に惹かれているのだと漠然的に思うものの、どう考えても結局は「化粧」に辿り着いてしまうのだ。

ほらまた、視界の端のちらりと映るファンデーションのキャッチコピーに目を惹かれる。今までなら流していた景色もやけに香水の気取った香りに溢れて眩暈がする。


「戸倉」


隣を歩く櫂の声を上に聞きながら、古本屋で買い漁った本の袋を持ち直す。こじつけたようなデートの内容でも不満を言わない点で櫂は出来た男なのだが、如何せん自分の意見を露出させる事自体が少ない彼に対して、その表現が適切なのかは瞭然だった。


「そっちも貸せ」

「半分ずつで妥協したのはそっちでしょ」


両者の目的の本がばらけて這入っている以上、どちらも預けるのは気が引ける(かといって自分の目当て品だけならすんなり渡すわけでもないが)事もあって片袋ずつ、と納得しあった筈だとミサキは言う。
とはいえ素直に感謝できればよかったのに、素っ気ない態度になってしまうのは少々頂けないとぼんやり思う。が、元々可愛げなんて持っていないと自負できるミサキとしては致し方無いで割り切る他無い。

ふと自分と同じぐらいの髪の長さの女性と擦れ違った。ふわりと香水だかリンスだかの甘い匂いが鼻腔を掠めて、はっと振り返る。残り香を名残惜しみながら、同じく立ち止まった櫂の肩を叩き歩き出す。


「俺は別に、着飾らなくてもいいと思うがな」


ふっと隣を抜かれたかと思えば擦れ違い様にそうぽつりと呟いていくものだから、思いがけず動きがぎこちなくなる。嬉しい、だなんて、思ってない。…筈だ。


「やっぱり俺が持つ」

「っ、構わないって言ってるでしょ」

「…それぐらい気が強ければ、大丈夫か」


櫂の呟きはミサキには届かず自己完結で終わったが、彼女の微妙な赤面顔に満足できたので良しとしておこう。





そしたら大人を壊しにいこう



***
お化粧に興味のあるミサキさんと、素のままが好きな櫂くん。
所謂30分クオリティ。


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