「戸倉、ゲームをしよう」
何を馬鹿な事を突拍子も無く、と呆れ顔を通り越して疲れたような顔をするミサキに、何時もの自慢げな表情で櫂が言う。その手には愛用のデッキ。ならゲームではなくファイトではないのかと思ったが、この場でデッキをシャッフルし出す辺り簡素なゲームなのだろう。引き出しからデッキを取り出して、同じようにシャッフルする。
「此処一応レジなんだけど…」
「すぐに済むなら構わないだろう?」
「……まぁ、客も来ないしね」
確かに下校時刻を十分に過ぎた後の店内は、早々にパックを買い友達と何時もの席でファイトを繰り広げている子供の方が多い。此処まで店内がいっぱいになるとパックの為にレジに来る客はほぼ無いと言っていい。
故に暇になりがちな空き時間を埋められるというのは、ミサキにとってはいい時間潰しなのだ。尤も、誰かと雑談するよりは読書をしている方が性に合っているのだが。
「で、何するつもり?」
「デッキの上から一枚ドローして、先にパワー一万のユニットを引いた方の勝ちだ」
「…アンタにしては随分簡単なルールだね」
「なら勝った方にパック奢りでどうだ?」
「ほんとヴァンガード脳だねアンタ。あたしは本一冊で」
「そっちの方が高くつくだろう」
「五月蠅い」
物がかかると熱が這入るのは人間仕方がない。少々荒くセットされたデッキを信じて、櫂とミサキは一気に手をかけた。
ハードルが低過ぎる駆け引き
「やっと実行しましたね」
「まーあー見えて意外と奥手な奴だからさ、櫂は。あんな感じでも頑張った方だって」
「でもパック買って喜ぶのなんて櫂君ぐらいだと思うんですけど…」
「はは、アイツ他人の好みなんて探れないからなー。ねーちゃんのぐらいなら把握済みかもって期待してたんだけどさ」
「僕はミサキさんが意外に乗り気なのに驚きましたけどね」
「んー…ねーちゃんも案外満更じゃなかったりして、な?」
***
一万打御礼文でした。
一発目で勝負がつきそうとか言ったら負け。
以前立ちヴァンでやってたブラックジャックが面白そうだったんで、その派生もどきで。