text | ナノ




※エレイン→ガンス描写有



彼等騎士というものは、己の生きる時を決められない。

幾ら美味い豪勢な料理を食べていても、幾ら日光をたっぷり吸ったやわらかなベッドに埋もれても。何時でも脳裏の何処かに過るのは、訪れる結末。終わりは等しく「死」。
それに至る経緯がどれだけ偉大であろうとも、その後に引き継がれる事は無い。死して尚、その魂が持って逝けるのは記憶と精神だけなのである。



「……おい、」

「…………」


色素の薄い金髪を流す騎士に投げかけられる尖った声。それに騎士ガンスロッドは振り向く事も無く、ただ黙々と剣の手入れをしている。思ったような返答のない彼に苛立ったのか、声の主であるゴードンは無理矢理彼の肩を引き掴む。強引に実行されたその行為に、しかし孤高の騎士の表情は揺らがない。


「…何時までそうやって仕事モードしてる気だよ」

「……騎士ならば、常に戦場を想って何が悪い」


真っ直ぐに、しかし貪欲に忠実に光るガンスロッドの瞳は、まだ動ける、動きたいと輝いている。戦場の匂いを忘れられないでいるのだ、彼は。こうして剣を弄るのも、彼の場合は習慣や礼儀といったものだけではない。つい数時前まで自分の居た場所を思い出して、浸る為でもある。
こうしたガンスロッドの歪んだ奇行とも呼び難い行動を知る者はゴードンしか居ない。これもひとえに彼の社交性が低いからだろうか、どちらにせよゴードンにとっては多少なりとも有難い。


「お前、怪我してたよな」

「…痛まないから平気だろう」

「そういう事じゃねえ」

「エレインに粗方治してもらったから、平気だ」


それが、お前が平気でもこっちが平気じゃないんだと、何時になればこの孤高の騎士はわかってくれるのだろうか。脇腹に巻かれた包帯は、巫女の治癒がかかっているとはいえまだ薄く血の色を滲ませていた。ガンスロッドが受けた傷の深さを、ゴードンは真隣で見ていた為によく知っている。
だから、引き下がれない。


「…エレイン、泣いてたぞ。お前がまた傷作ったって」

「………」

「お前の前じゃあ笑ってるかもしれないけど、裏じゃ凄く心配してんだ。それにあの子、お前の事」

「それ以上、」


喋るなと言わんばかりの鋭い眼光を飛ばされて、竦む。喉が渇ききったように張り付いて言葉が出ない。全身に嫌な汗が噴き出る。これが、威圧。視線を僅かでも逸らせば楽になれるというのに、それをしてしまえば何かが崩れてしまうのではと危惧した心が警戒音を立てる。


「…わからない訳では、ないだろう。聡いお前なら」

「……っ、それでも…っ!」

「まだ続けるつもりなら、広間にでも行け」


もうそれ以上何も言わず、ゴードンの方さえ向かなくなったガンスロッド。部屋には薪の爆ぜる音と剣を整える金属音だけが木霊する。何処か侘しい、色んなものを背負い過ぎたその背中にかける言葉は見つからない。見つかっても、果たして自分がかけていい言葉なのか。


「…皆、お前の事、心配してる」


お前は此処に居ていいと。その背中を、少しでも預からせてほしいと。せめての一言を苦し紛れのように吐いて、その場を去った。

ぽつん、と残されたガンスロッドの表情は不変しないままだったが、不意に眉根を下げる。苦しそうな、諦めたような顔。


「…もう掬い上げぬと、決めたのだ」


その真意を知る者は、果たして。



彼等騎士というものは、己の生きる時を決められない。

どれだけ自分を恋い慕う女性が居たとしても、どれだけ自分を想い叱咤してくれる戦友が居たとしても。何時でも思考の何処かにしこりの如く在るのは、遠くない未来。
終わりは等しく「死」。一度でも大事だと思うものを作ってしまえばそれまで。後生それを囲い守り、自尊心と共に抱き上げ。永久に眠る事と総てを捧げる事を拒み出す。


受け入れられないものがあるとわかっているから自心を殺せる。諦められる。それが騎士を与えられた自分に課した、騎士で在り続ける為の枷。
全ては無理だとわかっている。だからせめて、大切だと思えないけど想いたい彼等をこの両手で守れるならば。

掬う事は出来ずとも、背を見せる事は出来るから。





指輪を沈めた日




***
或星様に提出。


いつもの趣向よりもちょっと斜め下な暗いのです。実はこういう哲学みたいな文章をずらずらするのが好き。ほぼ自論だけども。
まだどちらも騎士になってあんまり経ってない頃。まぁそこそこに名が知れてる辺りが妥当かと。

戦闘狂なガンスとそんなガンスに乙女してるエレインちゃんと全部ひっくるめて心配するゴードン。


とても素敵な企画に参加できて嬉しいです。ユニット大好きなので。イメージし放題って素晴らしい。
企画参加ありがとうございました!


111005
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