text | ナノ
ガキィン! と、金属がぶつかる摩擦音が空気を震わせる。一時己の剣越しに見えた真剣そのものの眼差しに、片方は満足げな笑みを、片方は無表情の中に手応えを得たような薄い笑みを浮かべた。相手を振りほどいて間合いを取り、もう一度突っ込んでいく。再度、鈍音。
「っは! 一撃一撃重てぇな! 流石孤高の騎士様!」 「……無駄口を叩く余裕は残っているようだな、っ!」
咆えた長髪――ゴードンを半ば強引に押し退ける形で剣先を回せば、意図しない動きに一瞬彼に隙が出来た。それを逃しまいと、緩んだ手元に撃を入れる。手甲のおかげで切断こそされなかったものの、金属同士の打ち合いは手甲下のゴードンの手を痺れさせ、神経が鈍った結果、剣を手放すこととなった。やべ、とゴードンが漏らした時には既に、追い詰められた彼の背は近場の木にぴたりと押し当てられていた。
武器の無い騎士など捻るのは容易いと言わんばかりに、対抗する手段を失ったゴードンの喉元に愛剣を突き立て、ひと振り。頸動脈まで数ミリという生と死の境をリアルに味わった長髪の騎士は、冷や汗を掻きながらずるずると崩れ落ちて尻餅をついた。
「あっ、ぶねぇ……死ぬかと思ったわ」 「死ぬ気で来いと言ったのはお前だろうに」 「本気でやったら危ないっつったのはお前だろ」 「……揚げ足を取るな」
呆れたように溜め息を吐く男――ガンスロッドにかはは、としてやったりと言いたげな笑いをあげるゴードン。尤も、じとりと切れ長の目に睨まれては、それ以上口を開くことはできなかったが。
「しっかしまぁ、腐っても騎士だな」 「まだ現役だが」 「比喩だ比喩」
真面目に取るなよと茶化してみせるものの、この眼前の孤高を冠す男は冗談を冗談と扱わないから質が悪い。加えて戦闘以外では何処か抜けた節があるため、下手をすれば日常会話すら成り立たなくなることがある。
(何つーか、そんなだから構わないとって考えちまうっつーか……)
ゴードン曰く庇護欲をそそられる存在であるガンスロッドは、もう視線を自分でなく空を旋回しながら飛ぶ鳥に向けられている。ぽうっとしているように見えるのは間違いではない。
「…………」 「ガンス?」 「…………」 「おーい」 「………………」 「ガンスちゃーん?」 「…………ぐぅ」 「寝るなぁぁあああ!!」
頭を思いっきりひっぱたく。手が痛かった。うとうとと危なげに身体を揺らしながら、のろりと視線をゴードンに向けるガンスロッド。見た目は変わらず、しかし戦場を駈けているときとは真逆の、緩んだ視線と目が合う。何だか無性に気恥ずかしい。風が葉を揺らす音と、鎧の装飾が澄んだ高音を立てる他に動くものを感じないのも、きっと気恥ずかしさでポエマーじみた感性がちょこっとだけ生まれてしまっているからだとか、理由を取って付けて自己完結した。されども一度感じた羞恥は簡単には拭えない。喋ることも動くことも忘れて暫し経った頃、あー! と大声で叫んだゴードンは足元に転がっていた愛剣を手にし、切っ先をガンスロッドの眼前に向けた。
「あーもうわけわかんねぇ! もっかい勝負しろガンス!!」 「……訳がわからないのは此方の方なんだが」
言いつつも腰を上げ、再度戦闘体制をとるガンスロッドにニヤリと宣戦布告したゴードンは、手にした剣を握って走り込んでいった。
うつくしめ
*** ゴードンさんは紳士じゃなくて軽い人だよ! ガンスが仕事スイッチ切ると天然だったらいい。そんなガンスをほっとけないゴードンだったらいい。 萩谷さんの絵が素敵過ぎて死ねますって。
110903 170311 修正
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