text | ナノ

剣豪プレイ後推奨
グラの関係で見た目はどっちもそのままの設定
自己解釈もりもり



 その人物の姿を見た瞬間、武蔵の神経はぴりっと一本戦を引いたように張り詰めた。白髪に、褐色の肌。見目や服装は違うが、どことなく感じるものに共通点がある。知らず知らずのうちに顔が強張り、その姿を凝視していた。武蔵のぎろりとした視線に感づいたのか、その人物は読んでいた本を閉じ、好青年という言葉が似合うようなにこやかな笑みで、彼女に会釈した。

「おや、貴女は最近来たという」
「新免武蔵……いや違うか、ここではセイバーの宮本武蔵ね」
「ご丁寧に。私はルーラーの天草四郎です」

 その名を聞いて、矢張り、と武蔵は内に湧く感情を鎮めようとした。眼前に居るのはあのとき、あの場所に居た彼と違うことは、名乗りからも、雰囲気からも判る。判るのだが、武蔵の脳裏にちらつくのは、扇動し、嘲笑し、ぎらつく歯を見せて憎悪を燃やしていた、彼と似ている違う誰か。されたこと、してきたことを思い出すと、どうしても何時ものように笑ってはいられない。拳をきつく握り締める。彼には関係のない怒りを、奴に似ているという理由だけでぶつけそうになってしまう。そんな理不尽を、武蔵は自分で許せない。
 その雰囲気を鋭敏に感じ取ったのか、天草はその場を離れようと席を立った。

「どうやらお邪魔のようですし、失礼させてもらってもいいですか?」
「えっ!? あっ、いや、ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待って!」
「何ですか?」
「いや、えーと、その……、っ! 君、願いは何!?」

 はた、と天草の動きが止まった。何を口にしているんだろう、と、武蔵でさえ目を丸くしたほどだ。緊迫した空気が二人を取り巻き、一瞬時間が止まったようにも思える。しかし武蔵が取り繕うよりも先に、口を開いたのは天草だった。何時も浮かべている微笑よりも更に、形容し難い何かを滲ませた笑みで、彼は言う。

「総てを救うこと、ですかね。どれだけ笑われようと、詰られようと、それだけは変わりません」

 きっぱりと言いきった天草に、武蔵は何故か言い知れぬ安堵を覚えた。吐き出された願いが、理解はできずとも納得できるものであったからなのか、はたまたあのときの奴とそっくりな見た目をしながらも、至った答えが真逆であることに喜んだのか、そこまでは判らない。判らないながらも、武蔵はこの天草の答えを、「とりあえず良し」として捉えた。少なくとも、自分やマスターに危害のある内容でないことだと思えたからかもしれない。

「そっかぁ……“あれ”がおかしかったのかぁ……」
「あれ、と言いますと?」
「……うーん、君は知らなくてもいいことだよ。きっと」

 それ以上の言及を、武蔵は避けた。あれは生前の自分と同じで、あまりにも小さな可能性だったために、その世界から放り出された、この世界にとってはありえない「もしも」なのだ。彼は世界を巡るうちに在り様が歪んでしまったみたいだけれど、今此処に居る英霊としての彼は、正しく聖人だ。全てを救いたいだなんて、そんな神様みたいなことを言う人が、歪んでいるわけはない。僅かな可能性として潰されてしまったあれの恨みの方が、よっぽど異端だったのだろう。

「そうですか。気を遣って頂いたようで恐縮です」
「いいえこちらこそ。前に見た顔に似ていたからつい、ね」
「この世には自分と同じ顔があと三人は居ると言いますから」
「それ、サーヴァントでも同じなのかしら」
「ふふ、さぁ、どうでしょうね」

 それから二言三言交わして、天草はその部屋を去って行った。持っていた本も終わりのようだったし、きっと図書室にでも行くのだろう。そのまま彼が居なくなった空席にお邪魔することも考えたが、気を張ったりで疲れた武蔵の身体は、思った以上にエネルギーを使ったのか、ぐぅ、と間抜けな音を鳴らした。

「……あはは。食堂行って、うどんでも貰うか!」

 それきり、武蔵はこの一件のことを考えるのは止めにした。きっと、浮かべた笑みと答えが、あの彼の在り方なのだろうから。


***
自己解釈ばりばり。


蛇足

171108
×