text | ナノ
「おいレオンー……」
「貴様は馬鹿か。ただでさえ人の多い場所で、ああも目立つような真似を……!」
「だから悪かったって言ってるだろー! つうかゲーセンなんて騒いでなんぼだって!」
とりあえず人の少ない所に、と駆け込んだ先の公園で、ベンチに座りながらプルタブを開けた炭酸を片手にナオキが吠える。隣でぐちぐちと五月蝿いレオンに辟易しきっているナオキだが、何となく自分にも非がある気はするのであまり強くは言い返さず、できる限りの反省の色を見せるばかりだった。ナオキの態度にまだ納得しきれていないような表情のレオンだったが、少し自分も落ち着くべきだと買ったミルクティーを嚥下しながら一呼吸置く。ちらりと見えた戦利品に微妙な顔をしてしまうのは仕方がない。
「…しかし、よくそんなものに大枚をはたいたな。余程欲しいものだったのか?」
「へっ? あ、ま、まぁな……」
言葉を濁すナオキ。別に可愛い物集めが趣味だからといって馬鹿にするつもりは一切ない。寧ろ微笑ましいとさえ思う。
「見た目によらず少女趣味なところもあるのか、意外だな」
「ちげーよ! いやでも違わない、のか……?」
「おい」
「だーっ! くそ、ほらよ!」
それ以上の弁解も思いつかず、ナオキはぬいぐるみをレオンに押し付けた。サッカーボール程の大きさの物体を唐突に渡され落としそうになるも、しっかりと首に腕を回して受け取る。目をぱちくりとさせるレオンの向かいで、そわそわと左右に視線を外して落ち着かない様子でいるナオキ。
「…ん? 何故俺に寄越す。これはお前が取った物だろう」
「だから! プレゼントだよ! …お前今月誕生日だ、ってジリアンとシャーリーンから聞いたんだよ。ちょっと早いけど……」
「……ああ」
言って恥ずかしくなったのか頭を掻いてそっぽを向くナオキを見て、今までの彼の妙な言動に納得するレオン。詰まるところ自分の腕に抱えられたつり目の猫は、誕生日プレゼントということらしい。誕生日は物心ついた頃から双子たちと長がお祝いの言葉と食事を作って盛大に祝ってくれるが、こうして島の外で親しくなった人間から祝われプレゼントを貰うのは初めてだった。湧き上がってくる言い知れぬ感情に何も言えずにぎゅっとぬいぐるみを抱えていると、顔を覗き込んできたナオキが訝しげな表情を作り、拗ねたように口を尖らせた。
「…何だよ、気に入らないのかよ……やっぱカードの方がよかったか? いや、でもアクアフォースのカードはショップで見かけたことなくてよぉ……」
「アクアフォースは我等蒼龍の民にのみ許されたものだ。一般市場に流通などしているわけがないだろう。というか、その話は以前した筈だが」
「ぐっ……」
「……だが、その心意気は嬉しく思う。これも有難く戴くとしよう」
緩みそうになった頬を慌てて引き締め、いつもの自分らしい対応をする。急な取り繕いも鈍感なナオキにはバレていないのか、よかったよかったと胸を撫で下ろして喜びをあらわにする。単純というべきか、やはりお人好しというべきか。
「俺さ、これの種類違い持ってんだ。赤のジト目のやつ」
今日はつけてないけどなーと目尻を指で吊り上げて見せるナオキの言葉に、本人に似た猫のイメージが脳内をちらつく。
「……お前に似ているのだろうな」
「おっ、よくわかったじゃねぇか! これもレオンに似てると思ってな!」
「…………」
手元のぬいぐるみをくるりと傾けてみる。確かに、確かに言われてみればどことなく鏡で見る自分の顔に似ていなくもないと感じるが、何だか腑に落ちない。刺繍の目がレオンを見つめる。しかめっ面でそれを見ていると、ぷくくっと隣でナオキが小馬鹿にした表情で笑った。
「何か、同じ顔同士で睨めっこしてるみたいだぞ…ぷぷっ」
「茶化してくれるな」
歯を見せて笑いながら、飲み終えた缶を離れたゴミ箱へ放り投げるナオキ。綺麗な放物線を描き、数秒してガコンッと空き缶が積み重なる音が小さく聞こえた。暖かな日差しを受けながら眠気覚ましにぐいっと身体を伸ばしたナオキは、大きくポーズを取りながらレオンに笑いかける。
「おーっし! プレゼントも渡したことだし、次はショップだショップ!」
「久しく顔を出していないしな、悪くはない」
「へへっ、ぜってー驚くかんな、お前」
「ほう、楽しみにしていよう」
海で生まれた貴方へ *** レオン様おめでとうございました!
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