SSS | ナノ

えふじおつめ(FGO)





真名バレあり
自己解釈あり

ジキモー/沖ノブ/ニトと不夜術




M教授にネチネチされてるジキルをさくっと助けるイケメンモーさん


「オイこらおっさん、そこのモヤシに何の用だよ」

 へこへこと恐縮するジキルがちらりと視線を上げると、種火周回帰りなのか鎧を換装した姿のモードレッドが不機嫌そうな表情で立っていた。廊下の真ん中に居るせいで、通れなくて機嫌が悪いのだろう、とジキルは瞬時に理解した。

「やぁ叛逆の騎士くん。マスターくんの指示に従ってお勤めご苦労だねぇ」
「も、モードレッド、お帰り。ごめん、今退くから……」
「おっさん聞いてんのか? こんな廊下のど真ん中で、モヤシ一人捕まえてなーにニヤついてんだキメェ。おら退きな」

 げしっと全く容赦のない蹴りがモリアーティの腰に入った。目をかっぴらき、声にならない声をもらしながらその場に蹲った彼を見て、しかしモードレッドはしてやったりという笑みを浮かべることもなく、突然目の前で行われた暴挙に慌てるジキルの腕を引っ張った。表情は、やはり笑っていない。この時点で、道を邪魔していたことへの怒りではなさそうだと、ジキルは何となく悟ったが、しかし何が理由かまでは判らなかった。

「あっ、あの、モードレッド」
「んだよ」
「流石に蹴りはないんじゃないかな……しかも鎧姿での」
「ハッ、知らねーな」

 モードレッドの歩幅は大きくて、後ろで引かれるジキルはつんのめりそうになりながらもなんとか追従している。こういうときのモードレッドは大概気分の悪いことがあって、虫の居所がよくないのだ。種火周回で折が合わないサーヴァントと組まされたのだろうか? はたまた戦果が芳しくなかったのか? 悩んではみるが、ひとつひとつ口に出していってはジキルの身体と心臓が持たない。頗る機嫌の悪いモードレッドに原因を正してあの目で睨まれるのは、できればもう御免だ。
 なので、自分にできる精いっぱいの一言は、これしかなかった。

「モードレッド、ねぇモードレッド」
「……んだよ」
「……ありがとう」
「何への礼だよ。オレはあそこに居たおっさんが邪魔だったから退かしただけだっつーの」

 少しだけ、モードレッドの歩幅が狭くなった。引かれる強さも弱まって、漸く普通のペースになる。背後から覗き込んだ金髪の少女の頬は赤く、むくれていて、まるでお気に入りの玩具を誰かに盗られたあとのような、理不尽と怒りをない交ぜにしたような目をしていた。

「食堂行くぞ。オレは腹が減った」
「うん。丁度アフタヌーンティーの時間だしね」
「オレの腹はスコーンなんかじゃ満たされないぞ」
「キッチンに頼んで、ミートパイでも焼いてもらおうか」
「それなら食ってやる」

 いつの間にか掴まれていた腕は解放されて、二人並んで食堂までの道を行く。

 某名探偵が転がったアラフィフ紳士を見つけてまたひと悶着あるのだが、それは彼らの知らない話である。




壊れた時計で起きる沖田とノッブ


 ピピピピ! とけたたましく鳴り響く目覚まし時計を探るように、頭の上の辺りをよろよろと手が徘徊する。こつんと甲に当たった感触を辿るように時計のてっぺんを探り、出っ張りを叩く。音は止まったが、鋭い金属音が耳の奥にまで残っている。おかげでまだ起きるつもりなどなかったのに、頭が響いて起きる羽目になってしまった。

「うぅ゛〜……」

 少々古びた時計なせいか、目覚ましの設定をしていないのに鳴り出すのはこれで三度目だ。そろそろ機械に明るいサーヴァントに修理を頼むか、マスターに新品を強請るかしなくてはならないかもしれない。主に自分の安眠のために。
 もそもそと布団から這い出、隣を見れば、ぐーすかと規則正しい寝息で転がる信長の姿があった。沖田さんはこんなけたたましい音で起こされたというのに、このノッブは安眠を貪っている……。沖田が理不尽な怒りを覚えるのも無理はない。むむ、と唇を尖らせながら、猫のようなしなやかさでするりと信長の布団へと滑り込む。すん、と鼻腔に香ってきたのは石鹸の柔らかな香りだ。カルデアの大浴場には備え付けのシャンプーやトリートメントがあるが、一部のサーヴァントは自分の気に入った物を持ち込んで愛用している。信長もそれに近しく遠い一人で、今や懐かしい(とはいっても沖田の時代では当たり前な)固形石鹸を好んで使っていた。無論、身体から髪まですべてそれ一つで賄おうとするので、流石の沖田も石鹸の香りのするトリートメントを押し付けたのだが。
 ふと気になって髪をひと掬いしてみる。なんやかんやと言ってそれを使ってくれているからか、信長の濡烏の長髪は、今日も癖なくしっとりとしていた。

「ノッブのくせに生意気なうるつや……と言いたいところですが、これには沖田さんが手を貸してしまっているので何も言えないのであった……」

 するりするりと指通りのいい髪を手で梳いていれば、自然と石鹸の香りが沖田の鼻を擽る。そのうち信長の髪が恋しくなって、恐る恐る信長の背中に擦り寄った。そろりと腹周りに腕を回して、首筋辺りに顔を埋めてみる。信長自身の匂いと石鹸の香りが混ざって、なんだか安心してしまう。そしてすっかり目覚まし時計への怒りを中和させた沖田は、信長の背中に抱き着いたまま、二度目の就寝を迎えるのであった。


 外が明るくなった頃、信長はぼんやりと目を覚ました。

「……なんじゃこれ」

 やけに背中が重いと振り向いてみれば、自分の首筋に頭を埋めてすやすやと寝息を立てる沖田が居た。子泣き爺かこいつは、引き剥がしてやろうかとも考えたが、あんまりにも子供のように寝息を立てるものだから、起こしたら何だかばつが悪そうで、渋々手を引っ込めた。

「わしも甘いのぅ」

 頬にかかる淡い桜色の髪を摘まんで、信長はくひひと笑って布団を被り直した。


シェヘラを推していくニトちゃんとマイナス控えめなシェヘラ(水着イベ後)


 ひっそりと朝食を済ませたシェヘラザードは、誰に気付かれることもなくトレイを下げ、そそそと食堂を後にした。食事時なので、廊下ですれ違うサーヴァントや職員の数は片手で足りるほどだ。そしてすれ違ったとしても、自身のことで手一杯なのか、はたまた談笑に忙しいのか、わざわざシェヘラザードに声をかけていくことはしなかった(無論自分が極限まで気配を薄めたり、隠れながら移動しているせいもあるが)。そのことに悲しくなったりはしない。足手まといの自分は、此処に住まわせてもらっているだけでも上々なのだ。それに、こっそりと生きねばいつ死んでしまうかも判らない。突然声をかけられて、驚きのあまりショック死しないだなんて誰が言いきれるだろうか。そう、だから彼女はひっそりこっそりと、辺りに警戒しながら一歩を踏みしめ……。

「おや、相棒ではありませんか」

 びくん、と身体が震えた。ひゃ、とか細い悲鳴が漏れてしまったが、幸い相手には聞こえていないらしく、にこにこと人好きのする笑みでシェヘラザードを見ている。

「ニトクリス、さん……」
「もう朝食は終えたのですか? 早いのですね」
「ええ、まぁ。人の集まる時間帯にあそこへ長居していては、運悪く飛んできた食器が頭にぶつかって死ぬ、なんてことも、ないとは言い切れませんので……」
「それは流石に考え過ぎでは!? ……と思いましたが、朝なら兎も角夜は酔ったサーヴァントたちが勢いでやらかしそうではありますね」
「常に死は身近にあるのです。ニトクリスさんもお気をつけて……」
「む、貴女の意識改革のために少々反論したいところですが、心配されてはあれこれ言うのも無粋ですね。素直に聞き入れておくことにしましょう」

 常と言っていいほどマイナス思考なシェヘラザードに、最初こそニトクリスも呆れてしまったが、その性格だけが彼女を形どっているわけではないということを、あのレースで知った。あの白熱した一件以降、ニトクリスが気付いたこととしては、シェヘラザードはこうして他者を思いやる一言を、いつも言葉尻に付け加える。自身の宝具の関係上、レイシフトで現地へ赴くことが多いニトクリスは、よく彼女から自分の身を案じるようにと一言貰うことが多い(尤もレースの一件後からではあるが)。同盟者もあの柔らかい声音で身を案じられているのだろうと思うと、同じものを自分が受け取っている事実と、それをされるのが少なくとも同盟者と子供たちを除けば自分であるということが、なんとなく恐れ多くて、でもそれ以上に嬉しいのだ。

「私も既に朝食を終えました。ファラオたるもの、迅速な行動ができてこそです! その点で言えば貴女もなかなか見どころがあります。ふふ、我が相棒に相応しい迅速さですよ」
「それは……褒められているのでしょうか……」
「勿論。このニトクリスに賛辞を頂いた、と、大声で触れ回ってもいい程です。……あ、オジマンディアス様にはこう、控えめにといいますか、あまり大事のように自慢するのはおやめくださいね?」

 いそいそと恐縮する姿は、少なくとも自分の知る王という存在がするものではない。ニトクリスのそういう慎ましいところは、とても素晴らしいとシェヘラザードは思う。こんな王が居るとは、やはりカルデアは予想外な所だ。

「そうです。今日はレイシフトがないので、貴女の物語を聞かせてはもらえませんか? あのような素晴らしい語りはなかなか聞けるものではありません。可能であればオジマンディアス様の前で披露して頂きたいですが……」
「いけません……それはいけません……」
「……まだ、やめておきましょうか」




2017/10/20


×