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三日月とオルガとビスケット(鉄血)






三日オル寄り



オルガは何処に、と会って早々挨拶より先に問われたビスケットは、いつものことだと言わんばかりに頬を緩めまず始めにおはよう、と柔らかく言葉を紡いだ。

「あっ、……おはよう」
「うん。で、オルガだっけ? 今日はまだ会ってないなぁ。居るならまたあそこじゃない?」
「そっか、行ってみる。ありがとビスケット」
「あんまり単独でふらふらしないようにね」

子供で、飼われている犬同然の扱いである以上、下手な行動は首を締めかねない。幾ら実力者といえど頭の回る嘘などすぐに吐けようもない三日月ならば、理由を二、三重ねられてしまえば相応の罰則を受ける羽目になる。擁護を許さないこの現状でビスケットにできるのは、本人へのやんわりとした忠告ぐらいなのだ。
返事もそこそこに駆けていった大きいようで小さい背中を振り返りながら、これから突撃されるであろう我らが隊長が無事に朝食を摂れることだけを心の内でひっそりと願うビスケットだった。



CGSの地下は雑多だ。上辺だけ綺麗にしておけば見えないところの問題などどうだっていいのだと思わせるほどに。それは三日月たち参番組のような雇われて使い捨てにされる兵にも言えることだった。この命は、一番組の傲慢な大人から見れば吐いて捨てる程度の、所謂消耗品と同義だ。絶えれば、此処の汚さよりももっと酷い場所に打ち棄てられるだろう。彼らにとって代えの利く存在だとしても、三日月たち参番組にとっては決して他も次もない唯一。だから、そう易々とこの魂を売るつもりだけは毛頭ない。

再深部、動力源となる薄汚れた白い鉄の巨体の足元に、やはりその男は居た。長い手足を持て余すように投げ出して眠る男に近づいた三日月は、欠片の遠慮も見せずに彼の目前で、ぱちんと豆だらけの手を叩いた。

「う、ぉっ!?」

単に驚いただけか、それとも記憶に眠る何かと重ねたのか。目を見開いて跳ね起きた男は、ばくばくと生き急ぐ心臓を止めるようにタンクトップを掴み、震える唇から荒く息を吐いた。
視界がクリアになってきた頃、漸く彼は横目で自分を起こした犯人を認識した。当の本人――三日月はさして悪びれた様子も見せず、普段は無愛想な口元の線を少しだけ歪ませて。

「おはよう、オルガ」
「…………おうよ、」

何よりも先にそう言われてしまい、論も文句もすべて飲み込まざるを得なくなってしまったオルガは、半分ぐらい納得しないまま自分の頭を掻いた。

「今日は何かあったっけ」
「特になかったはずだぜ。まぁ何か、つったって、俺らに回ってくるのなんざ禄な部類じゃねぇんだ。どんな内容だろうと、死なねぇようにとしか言えねえよ」
「まぁね」

誰よりも何よりも軽んじられる命にかけられる言葉など、それ以外にあるものか。



続きを書く余力が死んだのでこっちに。
またふと気が向いたら加筆して短編に行くかもしれない。




2016/04/19