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ミサキが櫂君を殴る(VG)






Я櫂とミサキ
細部の捏造過多
ご都合展開ご都合主義
何かがおかしい何もかもおかしい
暴力表現注意






 ウィーン、と滅多に開くことのない広間への自動ドアが開いたことに、デッキの調整を終えて一段落していた櫂はソファに転がったままの身体を少しだけ身動がせ意識を浮上させた。来客になど特に興味もないが、この場所に誰も居ない以上確認ぐらいはせねばと重い腰を上げた刹那、ダンッ!と地面が揺らぐほどの床鳴りにびくりと動きを止める。明らかに威嚇するような足音に、覚えがない櫂ではない。視線を投げたその先に、見慣れたスリットを翻した彼女が居た。


「そんな気はしないけど、久しぶりだね、櫂」

「そうだな、戸倉……そう簡単に此処には入れないようになっていた筈だが」

「アタシがそれぐらい、どうにもできないと思ってるの?嘗めてくれるね」


 よくよく見てみれば少し擦れたブーツに赤い手。ミサキが正攻法でなく荒療治気味に乗り込んできたことは明白だった。しかし元より彼女の目的が霧散していない以上、その方法を用いた方が手っ取り早いというのもまた事実である。


「一人か」

「一人だよ。アンタに個人的な用があってね」

「な、っ!?」


 櫂が瞬きをした瞬間、言うが早いかミサキの拳が櫂の腹に綺麗に入った。先程まで冷静に会話をしていたとは思えないスピードに加え、殆ど不意討ちのように決まった一撃に、櫂は蹲る。食事という食事を取っていないお蔭か、口内に広がるのは液体のみに留まった。腹を抱えて唸る櫂を、ミサキの視線が見下すように冷ややかに刺さる。


「こんなところで何してるの?アンタは其処じゃないでしょ」

「ぐ、ぁ……と、くら……おま、………」

「ねぇ何で……っ、何でアンタがそんなところに居るの…!」


 語尾を強めて激昂するミサキの表情は、屈んだままの櫂には見えない。だがその悲痛さは声と腹の痛みから十二分に伝わってくる。震えている声音に、ああ泣いているのかとどこか他人事のような、乾いた感想。そこまで自分以外の存在を遠巻きに見ていることに、櫂何も感じていなかった。


「アンタがッ!アンタが弱いなら、皆どうなるのよ!!」


 吐き捨てるようなミサキの声が脳を揺さ振る。それでも櫂は喋らない。


「アタシだって負け続きだ!何回も何回も負けて、悔しくてどうしようもなくて…!だから勝てたときどうしようもないぐらい嬉しいんだ!なのにアンタは……!!」

「………」

「アンタは当たり前の悔しさも喜びも捨てたっていうの!?負けるのが恐いとか抜かれるのが嫌だとか、子供みたいな駄々ばっか捏ねてんじゃないよ!!」

「……俺が、恐がってはいけないのか……っ」


 絞り出したような声にミサキは一歩下がる。気圧されるようなトーンは確かに櫂のものではあるが、今の彼の言葉に覇気はない。まるで疲れきったように項垂れたままの櫂が小さく震えながら、吠える。


「…負けたくないと、追い抜かれたくないと……対等でありたいと願ってはいけないのか!アイチ達と戦う資格を欲して何が悪い!!」

「アタシが言いたいのはそういうことじゃない!今のアンタは、アイチもレンも見ていない!!」





***
こんな流れの櫂ミサを考えてました。世界の危機が絡まないと本気の喧嘩しない二人。
以下こんなカットもあったよメモ。



櫂が欲しているのは、ぬるい温床でも誰かの肯定でもなく、ただ得た強さをぶちまけ頂点に在り続けられる場所。しかし本当にそうなのか。


「アンタはその力で何がしたかったの!アンタのしたいことは、周りをこんな風にしなきゃ成せないことなの!?」

「お前に何がわかるものか!間近であんな戦いを見せられて……っ、何故俺があそこに立っていなかったんだと!あの場に立ちたかったと!」

「アンタそれ本気?それじゃあ三和達まで攻める気なの?アンタの今の言葉は、一丸になって頑張ってたあの時のアンタ達そのものの否定と一緒なんだよッ!」




2013/12/12