部活がそろそろ終わるだろうという時間になるあたりで、荷物をまとめて部室のそばに来た。たしか今日は大地がみんなに肉まんを奢るって言ってたっけ。なら便乗して私も買ってもらおうかな。だめかな。

「あ!みょうじ先輩!」
「お!日向君!」

ぴゅんと階段を駆け下り、こちらへ駆け寄ってくるのは一年の日向君。そのうしろから、「おい迷惑かけてんなよ」と面倒そうにやってくるのは影山君。続けて月島君と山口君が苦笑いしながらやってくる。四人とも部活終わりらしく、ふわりとデオドラントの香りが漂ってきた。

「みんなおつかれさま」
「っす」
「お疲れ様です!」
「お疲れ様です」
「どうも…大地さんならまだ部室ですよ」
「今日、肉まん奢ってくれるって言ってて」
「あ、うん聞いてる、ありがとう」

月島君はなんだかんだで親切だ。山口君も。
一年生が入りたてのころは、大地からあれこれ話を聞いた。あいつらの仲の悪さすごいんだよ、影山と日向はなんか元々あるらしくて、でも俺はあの二人がうまくかみ合えば何かとんでもないことが起きるんじゃないかと思ってる、あーでもあと月島と影山も仲が悪くて、…なんていうように。
それでどんな一年がいるのかと思って見てみれば。ただわあわあ騒いでいるだけで、たしかにうるさいけれどどこか見守りたくなるような子ばかりだった。大地があれこれ言いながらも微笑んでいた気持ちが、そこでやっとわかったのを覚えてる。

「きみらほんと、そろそろ大地さんに怒られるよ」
「は?なんで?」
「いちいちみょうじ先輩に絡むから」
「なら日向が悪ぃな」
「?!押しつけてんじゃねーよっ、ついてくんのお前だろ。てか月島いちいちってなんだっ」
「あ?!俺悪くねーだろっ」
「わるい!」
「わるくねぇ!」
「お前大地さんに怒られるのが怖いからって〜」
「んだと、てかなんだてめえその顔!!」
「ってえ!!おいふざけんな!」
「ねえうるさいんだけど…小学生?」
「影山、日向、ほら先輩困ってるじゃん」

山口君いい子。
ぎゃあぎゃあやり始めた影山君と日向君を懸命に抑えようとしてくれる。月島君はわりと放置。騒いでいた二人は山口君の介入により落ち着きを取り戻す。…このへんの力関係も謎だ。
何はともあれ、これで一旦二人は騒ぐのをやめた。しかし次の瞬間、山口君の努力は水の泡となる。

「あ!!みょうじ先輩じゃないっすか!」
「うおおなんかお久しぶりです!元気ですか!元気そうすね!」
「あーうん、元気〜」
「お前らなあ…」

田中君西谷君により、一旦静まった空気が再び賑やかになる。そのあとから縁下君、木下君、成田君と続く。「うるさい…」と呟いて月島君はそっと輪から離れ、山口君はそれに倣い、影山君と日向君は先輩二人に巻き込まれた。

「今日大地さんが肉まん奢ってくれるらしいんすよ!!!」
「うん、そうらしいね」
「ほんとありがたいっすよ、俺今日はカレーまん食べてえ〜…影山もだろ!」
「え、あ、うす。食いたいです」
「腹減ったぁぁ」
「うおお、腹が鳴る、ぐーぐーいってる…」
「お腹までうるさいのかよ」
「までって何だ力!」

がちゃり。部室の扉が開く音がした、ような気がした。思わず上を向くと、三人分の足音が近づいてくる。…あ、これあれだ、怒られる。
それらの音に気づく様子もなく、なぜかお腹が鳴ることにテンションのあがっているらしい部員たちからちょっとだけ離れる。巻き添えはイヤだ。顔を引きつらせる私のことを、日向君が不思議そうに見上げた、そのときだった。

「お前らうるさいっ!!!」
「「「!!」」」
「っだ、大地さ…!」
「ひい…!」

…毎回恒例のこの怒声に、毎度のように震え上がる部員たち。学ばないなあとは思うけど、これももうお約束といえばお約束だ。大地ももう慣れたらしく、すぐに表情を元に戻して階段を降りてきた。苦笑いしている菅原と東峰が、その後ろにはいる。

「大地さん、みょうじ先輩いますよ!」
「おお、もう来てたの…ってお前ら、ここで騒いでたのはみょうじがいたからか!」
「ひっ」
「チビが悪いんです」
「チビいうなメガネ!」
「日向どういうことだ」
「へ、いや大地さ、おおれは」
「え、あ、日向君悪くないよ!」
「え?そうなの?」
「はい!そうです!」

言うなり日向は私の後ろへ隠れた。どんだけ怖いんだ。対する大地は、部活のあとだからかちょっと疲れた顔をして、「どうせお前らも悪いんだろう」とまわりに言いながら近づいてきた。

「先に行っとけって言ったのに…まあいい、じゃあ行くぞ」
「うっす」
「はい!」
「みょうじ、うるさかっただろ、悪い」
「てかもう慣れたんじゃない?」
「あははうん、慣れた」
「だよなあ」
「ねえ、潔子と仁花ちゃんいないの?」
「ああ、あの二人はもう着いてんじゃないかな」
「なんか先行っとくって言ってたぞ」
「あ、いるんだ!良かった」
「あーそうか、男ばっかの中に一人ってのも嫌だよなあ」
「んん、嫌ってこともないんだけど、なんかちょっと圧倒されるっていうか…」
「逆に旭はこないだ女子しかいない教室に一人でいたよな」
「見てたの…」
「あ、それ私も見た!あれなんだったの?」
「なんでみょうじさんまで見てるの」
「東峰君目立つんだって」
「それはある」
「無駄にな」

坂を下る。わらわら固まっていた群れはすこし崩れて、今はだいたい学年ごとにわかれている。一年生は四人でいる。仲良くなったんだなあ、と改めて思っていると、隣の大地が私と同じような目をして四人を見ているのに気が付いた。

「ね、仲良くなったね」
「ん?…ああ、一年生?」
「そそ。大地、はじめのころ、あんなに言ってたのに」
「まぁ不安なとこもあったから」
「ああなってよかったね」
「本当、そうだよ。良かった」

心からほっとしたように言うから、思わず笑ってしまう。すると大地はふいに、こちらにも笑顔を向けてきた。

「みょうじのおかげもある」
「え」
「いろいろ助かってる。…ありがとう」

いや私なにもしてない、と言おうとしたところで、先を行っていた後輩たちが商店に到着したらしく大地を呼んだ。どんだけ腹減ってんだあいつら、とちょっと面倒そうに、ちょっと楽しそうに呟いて、大地は私にことわって小走りでそちらへ向かう。田中君はそれからすぐに叱られた。

「菅原ー」
「んー」
「なんか大地にありがとうって言われた…」
「は?」
「いろいろありがとうって。後輩の話してたら」
「ああ、何かと思えばそんな話してたのか」
「ん。でさ、なんで私感謝されてる…?」
「俺に聞くかー」

そんな話をしている横で、東峰君はあっという間に西谷君に連れて行かれた。たまには最初に選んでください!ということらしい。菅原は、俺は残ったのでいいーなんて向こうに言いながら私と一緒にのんびりと歩く。坂ノ下商店まではもうすぐだ。

「直接大地に聞けよな」
「いや、聞こうとしたら呼ばれてっちゃって」
「ああ」
「…嬉しかったけどね」
「ん…えー、なんかこっちまで照れる」
「あはは」

たまに菅原には話を聞いてもらっている。といっても大地と付き合っていて不安になることなんてほとんどなくて、だから惚気話ばっかりだ。いつだったか、大地からもたまになまえの話聞くんだよ、お前らほんとなあ、なんて言ってた。私も大地も、菅原には頭があがらない。

店の中から、潔子と仁花ちゃんが出てきた。菅原と同じように手を振ると、二人はこっちへ向かってくる。
店の前にいる集団は、みんな同じようにほくほく顔で肉まんを手にしている。中心にいるのは大地。それを横目に見て微笑む二人につられて、私も笑った。


ーーー頼りになるバレー部主将。たまに肉まん奢ってくれて、怒るとめちゃくちゃ怖い。でも笑った顔は、だれより優しい。
さっき私に向けてくれた笑顔を思い出して、ただでさえ笑っていたのに余計に頬が緩んだ。もうゆるっゆるである。じんわりと温かい気持ちに包まれていく。

ありがとう、はこっちのセリフだ。


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