だいぶ日が長くなってきたからかまだあたりは明るくて、隣を歩くみょうじのカオがよく見える。多少嬉しそうな表情がのぞいてはいないかと内心期待しつつチラリと見たが、いつもの通り無表情+冷めた視線が返ってきた。


「なに?」
「…いや、なんでも」
「にしてはさっきからやたらこっちを見てくる気が」
「き、気のせいだろ、気のせい」


ふうん、と隣で聞こえた声にも、べつに何か特別な感情がこもっているようには思えない。…しかし驚くなかれ、1ヶ月前に告白してきたのはみょうじの方なのだ。俺が告白をしようと決意した翌日に、みょうじから。
実を言うと今でも俺はあの告白を、半ば信じていない。だって考えてもみろ、彼氏と一緒に帰ってんのに一切表情崩さないとか、もはや俺は嫌われてんのか、とか思うだろ。
付き合うようになる前は、わりといろんなカオを見せてくれていた気がするのに。それに俺以外にならみょうじは普通に笑顔まで見せる。
だからみょうじの考えていることがよくわからない、というのが正直なところだった。ただ惚れたが負けとはよく言うもので、俺は未だにどうしようもなくみょうじに惹かれ続けている。つまり俺からしたら、告白され付き合っているもののほぼ片想いの感覚であるという、なんだか妙な状況にあるのだ。


「影山」
「……」
「影山って」
「………んだよ」
「難しい顔してどうしたの。そんなに考え事すると頭痛くなるよ」
「…………」
「え、なに」


みょうじの存在自体が、現在俺がこうも悩んでいる原因なのだが。
軽く顔を覗き込まれ、俺のむすっとしたカオはばっちりみょうじに見られてしまった。どちらからともなく立ち止まる。みょうじはちょっと目を見開いて、すこし驚いた顔をした。


「怒ってる?」
「…べつに怒ってねぇよ」
「じゃあ、どうしたの」
「…………ぐ」


身長差があって、俺が見下ろしている形なのに、俺を見上げるみょうじのほうがずっと俺の上にいるようだった。真っ直ぐに俺を見据える瞳から、目を逸らそうにも逸らせない。
俺はいつのまにか口を開いていた。


「お前は…みょうじは、俺と付き合ってんだよな」


真顔でこくりと頷かれた。内心ちょっとほっとする。


「…で、お前、俺をどう思ってんだ?」


え?という顔でこちらを見返すみょうじ。さすがに俺の聞き方が悪かったかと思いどう言うべきか悩んでいると、みょうじはさらりと「そりゃ好きだけど」と答えた。あっけに取られていると、みょうじは首を傾げた。


「あれ、そういうことじゃないの」
「や、そういうこと…」
「?じゃあなんで驚くの。…ていうか、なんか、今更だね?」
「…………。」
「影山?」


なんて簡単に、人の悩みを蹴散らしてゆくのだ。しかも好きとか言われて喜んでる自分がいないわけではなくて腹立たしい。どこか浮ついた気分になる。
みょうじはしばらく不思議そうにこちらを見ていたが、何か思い当たったらしく俺を改めてじっと見つめた。


「影山、不安になっちゃったの」
「っ、ちげーよ、そんなんじゃねぇよ!」
「見栄はっちゃだめって、」
「はってねぇ!」


図星といえば図星。見透かされてる気がして焦っていると、みょうじは続けて言った。


「…まあ私がこんなだからなんだよね?たぶん」
「は?」
「私かわいげないでしょ、無表情で。二人のときすら」


何よりも、自覚があったのかと思って驚いていると、みょうじの口からはさらに驚くべき一言が飛び出した。


「私影山のこと、他の人の何倍も何倍も、意識してるんだと思う」
「な」
「付き合いはじめのほうだし、当たり前なのかもしれないけど…
1ヶ月経ったのに、それ変わんなくて。緊張するっていうか、なんていうか」


どーしたらいいかわかんなくなって。と、硬直している俺にむかってそう続けたみょうじは、声の調子はいつも通り淡々としていたけれど、なんだかすこしだけ照れているように見えた。…好きとか、さっきさらっと言ってのけたくせに、変なやつ。
どくどくと高鳴る心臓がひどくうるさい。


「まあさっき影山が、一応思ってること言ってくれたし。私も言った方がいいのかなって、思って言ったんだけど」
「…おう」


なんだか向かいあっているのが気恥ずかしくなってきて、俺はゆっくりと歩き出した。みょうじも同じようにして隣を歩きだす。



ーー付き合ってもう1ヶ月ほど経つが、一緒に帰るようになった以外本当になにも変わらなかった。むしろ距離が離れたんじゃないかとすら思ったりした。みょうじは俺にあまり表情を見せなくなって、なんだか認めたくはないがやはり不安にはなった。

けれど、いま。
俺はそうしてごちゃごちゃ考えていたことがどうでもよくなってしまっている。なんだかみょうじの言動に振り回されているような感じは否定出来ないが、もう何でもいいとすら思えてしまう。


不本意ながら赤くなってしまっている頬に、はやく元に戻れと何度も思った。
さらりと髪を揺らしながら歩くみょうじを横目で見ながら、敵わない、と俺は心の中で呟いた。




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