音駒高校男子バレー部。その評判というか実績は校内の表彰式だの何だのでよく聞いていたけれど、正直そこまでバレーに興味を持ったことはなかったし、わざわざ彼らの姿を見に行こうとかしたことはなかった。バレー部で知り合いなのは、中学が同じだった夜久くんと、弟の友達の犬岡くんくらいだ。あと黒尾くんのことも知っているといえば知っている…なんて、その程度の認識しかなかったわけだから、いざその部室へ向かうとなると、いくら私でもそれなりに緊張もする。

「………あの、すいません」

バレー部、と書かれたプレートのある部室からちょうど出てきたところの男子二人にそう声をかけたら、片方は「え、ななななんでしょうか…!?」と言ったあと、見る間にその目を見開いて動かなくなった。と思えば視線だけがものすごいはやさで左右に行ったり来たり…あまりにも挙動不審な反応だ。モヒカンみたいな髪型からして怖い人なのかも、と思ってたからちょっと予想外。
一方もう一人の子はじっと私を見ているだけで、その無表情が全く崩れない。なんとなく怖い。

「えっと、あのー…バレー部の部長はどこに…いますか!」
「えっ、あ、あえっ、と………」

つっかえたりどもったりしつつ、モヒカンのほうの男の子がなんとか私に、部長はもうすぐやってくるはずだと教えてくれた。そのお礼を言ったところで、ちょうど、後ろから足音がした。

「?…あ。黒尾くん」

振り向くと、そこには黒尾くんがいた。
しかし案の定私のことは知らなかったらしい、ちょっと私を見て首を傾げた。…私も名前と顔が一致しているという程度だから人のことあまり言えないけれど。

「あー誰だっけ…?悪い、顔はなんか知ってんだけど」
「隣のクラスの、みょうじです」
「隣か!みょうじ…」

みょうじさんね、ともう一度呟いてから、黒尾くんは「猛虎、福永、じゃーなー」と声をかけた。二人の男の子は、それぞれお疲れっす、と言ったりちょこっと頭を下げたりして、いなくなった。
…うーん、にしても黒尾くん、やっぱり背が高い。思いきり見下ろされている。もともと黒尾くんはこの身長でかなり目立っていたから名前を覚えたのだが、その印象のせいもあってなのか、こうして真正面から見るとひどく身長に差があるような気がしてならなかった。

「で、何か用か?」
「あの、黒尾くんってバレー部部長だよね?」
「?そうだけど」
「えっと、吉田先生が、今度の壮行式のことでちょっと連絡があるらしくて。明日のうちに来いって言ってた」
「あー了解…、つーか、なんでみょうじさんがが連絡しにくるんだ?」
「…それはまぁ、いろいろあって」

いろいろなんて複雑なものではなく、ただ単に、数学教師に最近の小テストのことで小言を言われ、挙句連絡のためにパシられたというただそれだけのことである。
なんとなく察したようで、黒尾くんは頬で笑った。ちょっとだけむっとしていると、ガチャリとドアが開いて、中から見知った顔が覗いた。思わず私は、あっと声をあげた。

「夜久くん?」
「おーやっぱみょうじか!知った声がすると思ったんだよな」
「なんか…ひさびさな気がする」
「そーか?」

黒尾くんや、さっきの男の子と同じく、赤いジャージ姿の夜久くんが部室の中からその姿を現した。制服じゃないのは、なんだかちょっと新鮮だった。
私がここにいる理由を尋ねられしぶしぶ話すと、夜久くんは遠慮なくけらけら笑う。隣のクラスとはいえやっぱり懐かしい気のするそれに、私も自然と頬が緩んだ。

「てかなに、みょうじさんて夜久と知り合いなの」
「うん、中学が同じで」
「そうそう」
「へー?そりゃ知らなかったわ」
「つーかみょうじ、またぱしられてんのな」
「な、またって何、またって」
「んーでも見かけるたび誰かに…」
「そうだっけ?!」
「え何、みょうじさんてそういうキャラかなんかなの」
「ちょ…?!ちがうちがうっ」

そんなふうにして黒尾くんを交えて、バレー部の部室の前で夜久くんとの立ち話が始まって、一分も経たないころだった。
「外に誰かいるんですか〜!?」というやたらと元気のいい声が聞こえるやいなや、ぴょんという効果音をあてるにはどうにもでかすぎる男の子が、突然部室の中から登場した。
…たぶん後輩なんだろうけど、なんていうか、日本人離れした容姿だ。髪の色とか、染めている感じではない。そしてもしかして黒尾くんよりも大きいだろうか?というかやっぱ身長高すぎやしないだろうか。
何がなにやらわからず思わず目が点になっているであろう私を見て、夜久くんと黒尾くんは軽く吹き出した。

「??これ、誰すか?」
「あー、うん、みょうじ。三年だからお前の先輩な」
「あ、先輩ですか!よろしくです!」
「みょうじ、これ、灰羽。一年な」
「一年?!
よ、よろしく…灰羽くんなんかでかすぎて目線なかなか合わないね…」
「え!そんな大袈裟ですって先輩ー!!」
「………」

そこまで大袈裟でもないよな、と思ったのはどうやら私だけではなかったらしい。ほぼ真上を見上げるようにして話す私を見て、そばにいた二人は苦笑いをこちらに寄越した。


しばらくすると黒尾くんや夜久くんも、帰り支度をしに部室に引っ込んだ。灰羽くんもそれに倣った。帰るタイミングを失い、ずるずる話し込んでしまっていた私はやっとそこで、帰ろうという気になった。
…なんというか、元からの知り合いではなかったのに、話しているのが楽しくていつの間にかこんな時間だったのだ。人見知りするほうじゃないけど、ここまで短い時間で誰かと打ち解けたのも久しぶりかもしれなかった。

部室から歩き出してすぐに、そばを犬岡くんとその友達と思われる子、そして先ほどの灰羽くんが走って行った。挨拶してくれたので、お疲れさまーと声をかけそのあっという間に小さくなる背中を眺めていたところで、後方でドアがガチャリと開く音がした。

「研磨、早くしろって」
「ん…うん」

黒尾くんに答えた、ちょっとだけ控えめなその声に、まだ他にも部員がいるんだなぁ程度の気持ちで私は振り向いた。そしてびっくりしてしまった。
黒尾くんの横を歩くその声の主は、金髪だがプリンみたいに頭の上のほうには黒髪が覗いている男の子だった。遠目に見ても、その色合いはなんだかすごかった。ヤンキー…?

「…!」

ちょっと私とは距離があったのだが、研磨という名前らしいその男の子が私の視線を感じたのか、ふいにこちらを向き目が合った。しかし途端にびくっとして、すぐに目を逸らす。なんだかちょっと猫っぽくて、その髪のイメージとは全然違った反応で、どこか可愛かった。

やがて下校を促す校内放送が流れ、教室へ慌てて小走りで向かいながら。私は今日見た強烈なバレー部員の面々を思い返して、思わずちょっと頬を緩めてしまった。
ーーーなんというか、バレー部、あまりにも個性が強すぎるのではないだろうか。
そしてそう思うのと同時に。
今日私は、あのバレー部との関わりについて、何も知らなかった状態から一歩踏み出したのだと、感じずにはいられなかった。


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