暑い夏、どうしても食べたくなるもの。
それが何なのかって、決まっているではないか。

「またソーダだ!」

俺の手に取ったアイスを見てそう言い、なまえはおかしそうに笑った。

「当たり前だろ。美味いんだぞっ、夏の定番だ!」
「あはは、ほんと夕、これ好きだもんねー」
「おうっ」
「んー。わたしは何にしよっかな…同じのにしよっかなぁ」

夏休み。坂ノ下商店にて、部活後の俺となまえは現在、冷えたボックスに入っている美味そうなアイスを物色中。…まぁ俺が買うのはいつも決まっているから、なまえが、ってことだけれど。
小柄な体とさらさらとした髪の毛を楽しげに揺らしつつ、あれこれ悩んで結局なまえが手に取ったのはチョコのアイスだった。コーンのまわりの紙をべりっと剥がして食べるやつ。こないだはりんごのシャーベットのだったな、なんて思いつつなまえのほうを見れば何やら含み笑いを浮かべていて、その笑顔にちょっとどきりとさせられた。なにか企むような、いたずらっぽい目をしている。

「よーし、久々に奮発しよう…」
「??」
「このアイスね、ちょっと高めなの」
「へー?じゃあそのぶん美味いのか?」
「うん…!」
「おお。そりゃいいな!」

でしょ!とちょっと誇らしげななまえとともに、レジへ向かう。一通り俺たちの会話を聞いていたであろうレジの女性は、若干口元に笑みを浮かべながら、俺となまえがそれぞれ差し出したアイスとお金を受けとった。



シャク、と音を立ててあっという間にアイスが半分消える。
少々物足りなさを感じるけれど、このアイスを思い切り頬張る感覚は夏っぽくてすきだったりする。喉をするりと通ってゆくその冷たさが、心地よい。

「夕はいっつも豪快に食べるね!」
「せっかく食べるんだからな!これぐらいしないともったいねぇだろー」
「あー。それもそっか。夕、さすが!」
「だろ!」

納得したような顔をして、なまえは突然その小さな口でぱくっと、アイスをひとくち食べた。しかしすぐ、なにやら慌てた顔であたふたし始める。

「ふ、ふめたい、」
「な、なにやってんだ?」
「夕の真似。なんかこう、豪快にいってみようと」
「おー?」

なまえの食べ方が、豪快だったかと言われればそうでも無かった気もするが。…しかしなまえ本人はわりと真剣な顔をしているので、それは言わないでおこう。
なまえは再びアイスをかじった。今度はうまく食べられたらしい、目を細めて、見るからに美味しそうな食べっぷりである。じっとその様子をみていると、なまえはにっと笑って、こちらにそのアイスを差し出してきた。

「ん?何?」
「えっ、欲しくて見てたんじゃないの?まぁ
なんでもいいから食べて!」
「え?いいのかよ?」
「どーぞどーぞっ、ぱくっといっちゃっていいよ」
「マジか!」

ならば、と受け取ったそれをひとくち食べる。ソーダの味一色だった口内に、ちょうどよく溶けた甘いチョコレートが広がった。

「おお…うまい!」
「でしょー」
「あっでも俺が見てたの、アイスじゃなくてなまえだぞ」
「?わたし?」
「ん。なまえのアイスの食べ方見てた」
「???」
「なんかこう、うまそうーに食べるよな。俺ああいう顔好きだぞ!」

そう?と照れつつも嬉しそうに笑うなまえに勢いよく頷いてみせ、お礼の言葉とともにチョコのアイスを返した。
ついでに自分の持っていた、若干溶け気味のソーダのアイスを差し出してみると、そのままぱくりと食いつかれた。

「うお?!」
「あ、おいしい!」
「え?!…あ、おう、そうだろ!」
「さすが夕だね!」
「おうよっ」

に、と笑顔を浮かべるタイミングは完全に同じだった。そのことがおかしくて、さらにまた笑ってしまう。
ーーーなまえはいつも、顔をくしゃっと崩して、見ていてつられてしまいそうになるくらい楽しそうな笑い方をする。
雰囲気が、なまえがいるとぱっと明るくなる。
だから隣になまえがいるいまが、最高に楽しくて、居心地がよくて。
日差しの暑さなんて対して気にならない、アイスは割増で美味しく感じる。部活後だってのにあんまり疲れも吹っ飛んでしまっている。
そんなことを考えていて、思わずいいことづくめじゃねーか、と言って笑ってしまった俺に、なまえは不思議そうな顔をしつつも笑顔を返してくれた。

明日も、お互いの部活が終わったあとはこうして二人で帰路につくことになる。きっと、今日みたいに声をあげて笑い合いながら。
夏真っ盛りであり、付き合いはじめて約半年の今日。改めて、なまえのことが好きだと思った。


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