どーん、と派手に開く花火ひとつひとつに釘付けになる原さんのことが、素直に可愛いと思った。


ーーー合宿最後の夜。先輩たちの、好みの女子がどうのとかいう話がやけに盛り上がっていた。月島は興味なさそうだったけれど日向はなんだかそわそわして、山口も興味がないではないような顔だった。
俺はといえばまあ、とくに気にせず布団に寝転がっていて。そうして、すこし考えてみたのだけれど。
俺はこれまでそんなに意識して女子と接したことがない気がするのだ。俺にとっての優先順位一位はいまも昔も変わらずバレー。恋愛だとかにかまけてる暇はない、と思っていたしいまもそうで、原さんがちょっとイレギュラーなだけだと思う。…それをわかっていて、ちゃんと俺にバレーを優先させてくれる原さんには正直すごく感謝してる。
まあとにかく、何が言いたいのかというとだ。女子に対して可愛いとか綺麗とか、特別そういうふうに思ったことがなかった俺からすると、これは全くもって未知の感情なのである。すきとかそういうのとは、また違う気がする。




大きく打ち上げられる花火が、間をあけずに鮮やかに開き夜空を明るく照らしている。俺の隣に座る、原さんの横顔もよく見える。
まっすぐ花火を見つめ、いつになくテンションのあがった表情。それに加えてよく似合う淡い色の浴衣に、今日何度目かわからないがどきりとさせられた。


「影山くん、あれ、ほらあれ!」
「ん?……おー…!」
「めちゃくちゃ綺麗だね…!」


ぼーっとしていた俺の視界の中で、原さんがこちらを向いて空を指差した。その先には、ざぁぁっと夜空に流れ込むような花火。その様子がびっくりするほど印象的で、さすがに俺も目を奪われた。
ーーそこで。きゅ、と、原さんは無意識なのだろうが、繋ぐ手に力を込めた。その瞬間、俺は一気に手に意識を持って行かれる。俺よりひとまわり小さな手が、ちゃんと俺の手の中に収まっているのがわかる。どうしようもなく早まる俺の鼓動に、原さんはどうやら気がついていないようだった。



***



俺たちは、しばらく無言で花火を見つめていた。
徐々に、花火の打ち上げられる間隔が長くなり、その大きさははじめよりずっと大きくなってきている。
もうすぐ、花火は終わりだ。俺はそうなんとなく察していた。そしてどうやら原さんもそれを感じ取ったのだろう、興奮気味だった横顔は、どうやら落ち着きを取り戻したように見えた。
横目でその様子を見ていて、ふと俺は、言わなければいけないことに気がついた。


「…原さん」
「うん?」
「夏祭り誘ってくれて、その…ありがとな」


久々の夏祭り、原さんが隣にいて、ぶらぶらと浴衣姿で二人ならんで夜店を回ることが出来て。食べたかったもんも食べれたし、こうして花火も見れている。
日頃バレーのことばかりなぶん、こんなふうに過ごせたのはすごく新鮮だったし、何より一歩前進出来たことは大きかった。まぁ手を繋いだだけ、と言われればそれまでだけれど。


「ううん。私こそ、時間つくってくれてありがとう」
「ーーおう、」


すごい楽しかった、…ていうかまだ終わってないよ。そう言って笑った原さんの笑顔は、どこかいつもと違って見える。
思わず一度目を逸らした。そしてもう一度見やると、原さんは花火にまた目を向けていた。そして呟くように、


「でも、もうすぐ終わるねー…」
「…だな」


その、見るからに「終わって欲しくない」と言いたげな表情を目にしたそのとき。
ぐらり、と思わぬタイミングで、自分の体が動いたのを感じた。


「……………原さん、」


名前を呼ばれこちらを向いた原さんの、花火で照らされた表情が、やたらと大人びて見えた。
視線がぶつかる。なんだか自分が自分でないようだった。思いの外近い距離にいることを今更ながら感じて、いくらか頬に赤みがさしたのが自分でもわかった。


「……………っ?!」


そっと顔を近づけると、原さんは大きく目を見開いた。すぐに俺のしようとしていることを理解したらしい、思い切り体が強張る。その様子を見て、ちょっとだけ俺の緊張はゆるんだ。繋がれた手に、どちらからともなくわずかに力が入る。
こつ、と額が当たり、原さんが先にぎゅっと目を閉じた。俺もそっと目を閉じる。



ーーーどこか遠くに聞こえる花火の音。そっと触れ、すぐに離れた唇の感触。
目を開ければゆでダコみたいに真っ赤になった原さんがいた。…俺は俺で、こんなふうに真っ赤なのだろう。尋常じゃない頬の熱さに、それを嫌という程思い知らされた。
なんというか。恥ずかしいとかいうレベルの話じゃない。

やっとそこで我に返って、お互い慌てて体を離す。


「……………」
「……………」


雰囲気にのまれる、とはまさにこのことではないか。原さんと目が合って、思考が完全に停止して、思わず体が動いていた。
…馬鹿か俺は。
なにが一歩前進だ、手を繋ぐだとかそういうのを軽く越えたことをしてしまった気がする。
しかも。帰り道、送ることにしていたのに、これじゃあどう会話したらいいのかわからないではないか。
きっとお互い顔も見られない。一時間ほど前に手を繋いだあのときすら、しばらく緊張でどうにかなりそうだったのに。しかも、あのあとは祭りの騒がしさにもまれているうちいつのまにか緊張が解けていたけれど、今度は静かな夜の道路だ。意識しないでいられるはずがない。

どうしたらよいのかわからなくて、数分前の自分を恨んだ。
しかし嬉しくないといえばそれは嘘になる。…そりゃあ、好きな相手とキスをして落ち込む奴も珍しいだろう。
言い訳のようにそんなことを考えている俺の隣では、原さんが頬を真っ赤にしたまま、もうやけになったように花火を見つめていた。
繋がれた手から伝わる緊張は、今日一番のものだった。



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