終業式が終わって、夏休みに入り。はやくも迎えた東京遠征。
深夜0時、俺はほかのバレー部員たちとともに、東京へ向かうバスに乗り込んだ。

…一週間か。
この遠征が終わってここへ帰ってきたら、原さんと一緒に行くことを約束した夏祭りがあって、そのさらに一週間後には春高の予選がある。正直言ってスケジュールはかなりハードになると思う。
とはいえ。
二人でどこかに遊びに行くことすらままならない今の状況で、原さんが行きたいと言う夏祭りを断るほどの馬鹿ではないし、それに実際、俺もかなり楽しみにしていたりするのだ。
この東京遠征を全力で乗り越え帰ってこようーーーそして原さんと夏祭りへゆくのだ。そう心に決めて、俺はやがてゆっくりと瞼を閉じた。



***



汗だくでボールを追い、トスをあげる。状況を頭に入れながら、声をかけあい、走り、スパイクを受け、とコートの中を目まぐるしく動き回った。うるさいくらいの蝉の鳴き声とこの異様な蒸し暑さに、もう季節は夏を迎えていることを実感させられた。
これまでにない、一週間まるまるバレーとひたすらに向き合えるというこの環境。はやくももう三日目の夜を迎え、ずっしりと感じる疲労感がなんだか心地よい。

がらりと扉を開ければ、教室の中では烏野の面々が思い思いに自由な時間を過ごしている。音駒の人が二人いてすこしびっくりしながら、俺は自分の布団へと向かった。
すとんと腰を下ろし、もう寝ようかと考えはじめたころ、見るからに何か言いたいことがあるという顔で、日向がじりじりこちらに近づいてきた。


「な…なあ影山」
「?あんだよ」


しばらくの沈黙。
そして、あーうーとうめき声を漏らしたあと、日向は。


「…あ、あのよ、つきあうって……どんな感じなんだ…?」
「!??」


生徒のみの、まるで修学旅行と錯覚していまいそうなこの空間。に加えてしばらくお互い口を聞いていなかったこともあって日向がいまこんな話を振ってきたのだということは、容易に想像できた。
…いつだったか、俺が原さんとのことをはっきり認めたとき、目を見開いて俺を見ていた日向を思い出した。きっとあのときくらいから、気になっていたのだろう。
幸いにも、田中さんや西谷さんは、音駒の人を巻き込んで向こうで熱い議論(?)をしていてこちらに気がつく様子はない。日向も一応気をつかったのか単に恥ずかしかったのか声を落として先ほどの言葉を口にしたから、まわりの人たちにも聞かれていた様子はない。
何やら、怒ったような期待のこもったようなよくわからない目で見据えられ、俺は何をどう言えばいいか本気で困ってしまった。


「なんかこう…影山みてーな奴でも、どきどきしたりしてんのか…?」
「あ?」
「うわわごめんごめんなさい!そんな怒んなって!冗談です!」


腰を浮かせ拳を構えてみせると、日向は真っ青な顔をした。元のとおりに体勢を戻す。そこでふと、枕元にぽんと放られたケータイを見るとチカチカと光が点滅していて、メールが届いていることを知らせていた。


「あ」
「ん?!…お、お前まさかそれっ」


メールを開封すると、[今日もお疲れさま!]から始まる、すこし長めの文面が目に入った。思わずすこしだけ頬がゆるみそうになり、日向がすぐそばでものすごい目で俺を見ていることに気づき慌てて表情を引き締める。
原さんからか!と大声で言いかけた日向の頭にすかさず一発入れて、ケータイに向き直った。
遠征中、原さんとは直接会うことは出来ないので、メールを交わす回数がほんのすこし多めになっている。
すこし迷いながらも、日向とのことをメールで送ってみることにした。


「俺さ、まだ影山に彼女がいるってのがよくわからない」
「は?」
「だってなんかお前ほんとバレーだし」
「は?」


メールを打ち終えて送信し、ケータイを閉じたあたりで、日向がそう言った。…どういうことだ?


「なんかこう、そんなことしてる暇あったらバレーさせろ!!!みたいなイメージ」
「……………」
「うわッ何だよ怖い!その目!」
「…んのボゲが」
「はあ?!…だだだいだいっ」
「なんか腹立つ」


頭をがしっと鷲掴みにして力をこめてやると、日向は悲鳴をあげ理不尽だと叫んだ。
しばらくして離すと、日向は涙目で、俺をきっと睨みつけた。


「なんで原さんはこんなのがすきなんだ…」


そこで一瞬間が空いた。


「あ、あ?!何言ってんだお前!!!」
「ど、どうしたんだよ!?」
「別にどうもしてねぇよ!!」
「はあ?!」


日向の呟きに、なんだか変な間隔で、しかも過剰に反応してしまった自覚は自分でもある。原さんが俺のことを、とかそういうの、改めて考えるとなにやら異様にくすぐったい気分になったのだ。
大地さんも菅原さんもいないためかまわりはまだうるさいけれど、これ以上やたらと原さんの話題を出す日向と話をする気になれない。俺はもう寝ることにして、布団に倒れこんだ。
すると、しばらく何か考えていた様子の日向が、「あっ」と声を発した。日向に背を向けて寝転んだから表情は見えないが、その声からしてろくなことを言いそうにない。なんとなく身構える。


「なぁなぁ、影山くんもしかして照れちゃったんですか。
…っぷ、もっかい言ってやろうか、原さんはお前のことがすきーーーってぎゃああああごめんごめん悪かったってっ」
「日向テメェ…」
「ひぃぃぃぃい」


体を起こし、日向に思いきり枕を振り下ろしたところで、目の端にチカッと小さな光が入り込んだ。
見ればケータイの、メールの着信を知らせるものだった。騒ぐ日向を無視しもう一度寝転んで、ケータイを手に取る。
誰からかなんて見なくてもわかった。…というか今日はちょっとだけ返信が早い気がする。
なんだか、ちょっとでも多く話がしたいという気持ちが、お互い通じているように思えてならない。ただの俺の気のせいだったらすげぇあれだけど。

…そんなことを考えつつメールを開封するなり、思わず緩んだ口元。俺は咄嗟に、顔を布団にうずめるようにしてそれを隠した。
きっと、日向はもちろんまわりの人には、俺の機嫌の悪そうな眼しか見えてはいないだろう。


ーーー電話か。
今日はもう寝るつもりだし、なんだかんだで瞼が重い。しかし明日、もう少し早い時間なら。
原さんからのメールの最後に添えられていた、ほんのちょっとでいいから電話出来ませんか…、なんていう文章。ささやかすぎる上妙にかしこまったその頼み事を、俺が断る理由などなかった。…いやむしろ。
声が聞きたい。
そんなふうに思い至って、なんだか死ぬほど自分に引いて、とりあえずメールに返信をして。やたらうるさい心臓と格闘しながら、俺はやがて眠りについたのだった。



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