最近影山くんがよく、私に部活のことを話すようになった。
以前はなんとなく一線を引かれていたというか、ある程度のところまでしか話そうとはしてない感じがあった。でも、今日はあれがうまくいったとか、もっとこうしたいとか、そういう気持ちの部分まで私に教えてくれる。
…どうもこの間の、電話で話したときから、影山くんの私との関係への考えがすこし変わったようなのだ。たぶんいい方に。
まあただの私の気のせいなのかもしれないけれど。でも、もしそうなのだとしたら、それはすごく嬉しいことだった。




あと数日で、夏休み。
朝のHRで担任の先生がそれを何気無く口にした途端、クラスは一気に賑やかになった。すぐに先生に一喝されて静かになったけれど、どうもみんな口元がゆるんでしまっている。
かくいう私もまわりの席の子たちと、声こそ発しないものの、思わず目を合わせては笑っていた。

ーーー夏休み…!

どうも影山くんから話を聞く限り、バレー部に夏休みなんてなさそうだった。しばらくしたら遠征も入ると言っていたし、いずれおおきな大会もあるらしいし。
…でも、毎日夕方まで部活が入る、なんてことはないはず。
どきどきとはやる胸を抑えつつ、私は放課後のことを思った。







「夏祭り、行かない?」
「…夏祭り?」
「そう!」


部活を終えて、ほんのり汗の香りのする影山くんのとなりを歩く。二人で歩くときの距離感だとか、話すときの目線の位置とか、ほんとにすこしずつだけれど、慣れてきた。
見上げると、ちょっとだけ見開かれた影山くんの瞳と視線がぶつかった。どうやらびっくりしているらしい。ーーこれまで、影山くんの部活のことも考えて、どこかに遊びに行こうとか全く言ったことはなかったので、当然といえば当然の反応である。


「もちろん、部活でかなり忙しいのはわかってるんだけど、こう…夏っぽいことをさ!」
「夏祭り…俺多分子供の頃以来行ってねぇな」
「えっ…なんで、祭り苦手?」
「ん、べつにそんなことは…でも特別一緒に行くような相手もいなかったし」
「彼女的なあれが?」
「まあそれ」


完全に流れではあるが、私が初めての彼女ということを知ってしまった。思わず頬を緩めると、どうやら見られていたらしく影山くんは「なんで笑うんだよ」とちょっとだけ不機嫌そうにした。


「で…原さん、行きてーのか。夏祭り」
「あ、うん!まあ遠征とかもあるんだろうけど、夏祭りはいくつかあるし…そのどれかには、行けるんじゃないかなあ、って」
「んー…日付わかるか?祭りの」
「ちょっと待ってね」


iPhoneで検索し、影山くんにその日付をひとつずつ教えていく。するとその中でひとつ、どうやら行けるものがあったらしく、影山くんはああと頷いた。


「たぶんその日なら行ける」
「ほんとに!」


影山くんが乗り気なのかどうかがわからず若干不安だったのだが、その言葉で私のテンションは一気にあがった。喜んでいると影山くんがふと、何やら思案顔になった。
しばらく考え込むような表情をしていたから、もしかして練習が入ってるとかかな、とちょっと嫌な予感がした。


「…どうしたの?」
「俺はたこ焼きとかき氷を食いたい」
「え」
「うまいよな…」


あ、もしかして、久々の夏祭りだからなのだろうか。
そう納得して、私は堪えきれず吹き出した。するとやけに凛々しいカオだった影山くんが、すこしだけ照れたような顔で目を逸らした。
…しかしさっきの言葉からしても、どうやら夏祭りを楽しみにしてくれているようだ。ちらりと見れば、いまだってなんだかわくわく顔をしているように見えなくもない。
私は、自分で思っていた以上にほっとしたようで、自然と笑顔になっていた。


「うん、食べよう!私りんご飴も食べたい」
「ヤキソバ…」
「ちょ、影山くんよだれ出てるよだれ」


身長も体格も私と全然違う男子のものだけれど、なんだか、ずっと年下の男の子と喋っている気がしてきた。見た感じ、私と一緒に行くこと以前にまず夏祭り自体が楽しみなようだけれど、それすらもなんだかかわいく思えてくる。
そしてなによりも。

ーーー影山くんと、夏祭り!

できれば浴衣で行けるといいなぁとか、写真撮りたいなとか。二週間ほどしたらやってくるその日のことを思うと、私は楽しみで仕方がなかった。


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