時計を見れば、深夜0時を過ぎていた。…もう寝よう。
とりあえず机に向かってはいたが、あくびしながら立ち上がり、ベッドに寝転ぶ。
ふとケータイをひらいてみると、新着メールが一件来ていた。開封するなり目に入った文面に、自然、やわらかい気持ちになる。

[おやすみ、また明日!]

そのあとには、なにやらふよふよ動いている絵文字がひとつ。他ならぬ原さんからのメールだ。
時間を見れば30分前のもの。そこまでケータイをいじる癖がないし、こまめにメールの返信をするなんていう習慣がないから、どうしてもこんなふうに時間が空いてしまう。それでも、以前より確実に増えたペースで、原さんとのメールのやりとりは続いていた。

どうしようかしばらく悩んだのち、俺はおやすみとだけ打って、送信ボタンを押した。その直後、自分のしていることがどうしようもなく柄にもないことのような気がして、すこし居心地が悪くなった。しかし同時に、そのことが何やらうれしいような。…なんなんだこれ。いまさらだけど。






「影山!!!今日はいい加減答えてもらうぞ!!!!」
「おうおう影山!いつまでもシラを切り通せると思うなよォ!」
「……………ぐ」


部室に入って俺の姿を見つけるなり、田中さんと西谷さんは俺への猛攻を開始した。慌てて着替えるスピードを上げる。月島が向こうで笑いを堪えているのがわかった。


「お前なぁ、あれほどまでにうまいお膳立てをした俺たちに何も言わずにいられると思うのか!」
「そうだぞ、さっさと白状しろ!どうなんだ今!」
「っい、いやあの!もうその話、わかりきってると思うんすけど…!」


原さんと二人で帰っているところなら、この人達には一度か二度は見られたことぐらいあると思う。部活終わりの帰り道だし。
俺が原さんに告白というものをする上で、なにやら俺を全力でサポートしてきたのがこの二人である。俺が直接頼んだわけではないし(そもそも原さんがすきだのなんだのとか一言も俺は言ってなかった)、正直そのサポートもはたして意味あるものだったのか定かではないが、まあ一応お礼の言葉を口にしてからというもの、こうして田中さんと西谷さんは俺にやたらと結果(+現状)を尋ねてくるのだ。


「あぁん?!」
「っな、なんですか」
「あのなぁーーーーー、だからこないだから言ってんだろ!」
「お前の口からそれを聞かせろって!な!」
「……〜〜〜っ」


影山の反応見て面白がってんだってあいつら、と一昨日言っていた菅原さんの言葉がふと蘇った。…頼ろうにもいまここに菅原さんはいない。
ここ数日ずっと、田中さんと西谷さんとはこのやりとりが続いていて、依然として二人は、毎日飽きずにこうして思い切り斬り込んでくる。部室に限らず、学校で俺を見かけるなり無理やりこの話へともっていくものだからたまらない。
ならさっさと結果を伝えてしまえばいいとは思うが、…口に出すことになんだか抵抗があるというか。簡単に言えばそういうことを話すのが気恥ずかしいのである。


「…俺はっ」


しかしずっとどうにか交わし続けてきたこの猛攻に、このときばかりはさすがに俺は心が折れてしまった。


「原さんとは、付き合ってますよ」


むしろ堂々と言ってのければ途端に、田中さんと西谷さんは崩れ落ちた。それはもうあっけなく。もともと俺と原さんの関係がどうなってたかは知ってたはずなのに、っていうか自分たちのほうから聞いてきたのに。
照れも忘れてびっくりしていると、そのとき。向こうで、すでに着替えを終えた日向が目を丸くしているのがわかった。俺がはっきり口にしたことに対して驚いたのだろう。しかし俺がその様子に気づいたのがわかったのか、日向はすぐにこちらに背を向けた。

ーーー新しい速攻に向け、日向も何か今、俺と同じように自主的にしていることがあるのだと思う。それはわかる。二人とも、向かうところは同じである。
しかしだからといって、あの体育館での喧嘩がなかったことになるわけではない。いまだ気まずい雰囲気はなくならない。


「…………」


あっというまに頭の中は、あのときの日向とのやりとりで埋まる。
そこでふと、なんとなく原さんの顔が浮かんだ。…このなにやらムシャクシャする気分も、たぶん原さんといればなんとかうまく収まるんだろう、と思い当たる。
なぜか屍と化した先輩二人を乗り越えて部室を出て、たっと階段を下りた。
無意識のうちにやたら早足になっていたらしく、うっすら汗を浮かべて現れた俺にちょっと原さんは驚いた顔をした。


「え、っと…お疲れさま?」
「…おう」


途端に原さんは笑顔を浮かべた。なにがそんなに面白いのか相変わらず俺にはわからない。でも、その笑顔をみて、どこかほっとしたのも事実だった。



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