※カウント最終話後すぐ
10万打記念 桜井さまリクエスト




付き合いはじめて本当に数日しか経っていなくて、彼女なんてこれまで作ろうとしたこともなかった俺が言うのもなんだけれど。…あれは嫌だ、と理由もなく思う。なんだか本能的なものだった。これまでにも何度か感じたことがある。
ーーー妬く、とはもしかしてこのことだろうか。なんとなくそう思い至って、思わずぐっと体に力が入る。…まさかそんなはずは。
俺の視線の先には、隣の席の男子と楽しそうに話をしている原さんがいる。


「…………」


宿題をしてみる(すぐやめたけど)、外を眺める、寝る体勢に入る、といろいろ試してみるも、もやもやしたこの嫌な感じが拭えない。自分があの男子に嫉妬しているなんて認めたくないし考えたくもないけれど、どんどんその不快度は増してくる。
そこでこの場を離れればいいんじゃ、と思いついたけれど、何故かそんな気にはなれなかった。どうしても目があの二人のほうに向いてしまう。

ーーーこっち向けばいいのに。

いつもみたくきょろきょろ俺を探して、見つけて、そんで笑いかけてくれたら全部吹っ飛ぶ気がする。なのに、ここから見える原さんの横顔はやたらと楽しげで。いつも俺に向いてるあの笑顔が、こちらを向く気配はない。
…いつも一緒にいる、あの友人といればいいのに。でもその友人は先ほどお昼を食べ終えてどこかへ行ってしまったので、それからはしばらくずっと、原さんはあの調子である。
しばらく、俺は目を閉じて机に突っ伏していた。ちょっと席が離れているから、教室の騒がしさに紛れてあの二人の笑い声なんかは聞こえない。このときばかりはそれがありがたかった。
そしていつのまにか、俺は本当に眠ってしまっていた。



ーーーぱち、となぜか自然に目が開いた。
腕にうずめていた顔をゆっくりあげる。がやがやした教室、まだ掃除は始まっていない…とそこまで認識したところで、俺はぴたりと動きを止めた。
誰も座っていなかったはずの前の席に誰かがいて、横向きに座りこちらを見ていた。目を見開き固まると、その”誰か”…まぁ言わずもがな原さんが、俺のその様子を見てくくっと笑った。ぼんやりとしていた視界が一気にクリアになる。


「えーと、おはよう?」
「!!??…っ、え、う、お?」
「ふは、驚きすぎ。…てかなんか凄いね?」
「なにが?」
「私がここに座ってすぐだよ、影山くん起きたの」
「え」


何だそれは、本当なのだろうか。思わずすごい顔になったであろう俺を見て、原さんは堪えきれないといった様子で吹き出した。ばくばくと心臓がうるさく騒ぎ出す。なんだかものすごく居心地悪い。決まり悪い。
しばらくその状態でいて、ふと疑問が浮かんだ。…なんで原さんはここにいるのだろう?さっきまで向こうにいたのに、どうしてわざわざ前の席まで。


「…なんか用事か?」
「え?いや?」
「?」
「?…え、ただちょっと話しにきた…んだけど」


言いながら、原さんがちょっとだけ照れた顔になった。すこしどきりとする。
…用事はなくて、話しに来ただけ。さっきまであんなに、隣のやつと楽しそうにしてたのに、俺のところに来たのか。
つられてなんだか照れてしまいながらも。意識がはっきりするにつれて、さっきまでの嫌な気分が、あっというまに崩れ去っていくのがわかった。単純とは俺のことだ。わかってる。


「ど、どうかした?」
「ん…いやなんか…………」
「???」


不思議だ、なんだかすごく変な感じだ。柄にもなくというかなんと言うか、原さんがここにいることにすごくほっとしている。さっきまでのむかむかは何だ、いらいらはどこへ行った。
なにも言わないけれど、いつになくどこか嬉しそうなカオをしているであろう俺を見て首を傾げていた原さんは、やがてぱっと何かを思いついた顔になった。


「あーあのね。さっき隣の子に影山くんのこと聞かれた」
「?…俺?」
「そうそう。その何ていうの…私と影山くんの話、をこないだ知ったらしくて。
で、影山くんについていろいろ聞かれて」
「俺の話って…何話したんだ?」
「んー。とりあえずバレーが好きなことを話したかなぁ」
「それは誰でも知っているんじゃ」
「いや、意外と知られてないよ?めちゃくちゃ好きー!!!…ってことまでは」
「お、おう?」


…それ、聞いている側は果たして楽しい会話なのだろうか。
たしかにあまり接点のないやつだったから、俺に対して興味をもつのはわからなくもないけれど、だからといって突然そんな話をされても困るのでは。
そんなふうに思ったのだが、俺の考えていることを察したらしく、まあ私は楽しかったからと小さく付け加えて笑ってみせた原さんを見ていたらなんだかどうでもよくなってしまった。それに自分の話をしてあんなに楽しそうにしていたのだとしたら、そりゃ嬉しくないはずがない。


「……はあああ」
「?」


慣れない。全然慣れない。何かにつけて一喜一憂させられるこの感覚に。これが、彼氏彼女ってやつなのか?全然わかんねぇ。


ーーー付き合いはじめてまだほんの数日。こうして話しているのも、内心すごく気恥ずかしい。
でも、こちらを不思議そうに見る原さんの顔を見ていたら。そばにこの人がいることに、なんだか妙に安心してしまった自分がいた。

敗北宣言カウントダウン



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title:kara no kiss
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