※カウントスリー15〜16話くらい
1万打記念 海咲さまリクエスト





一限目が終わった後の休み時間、届いていたメールに返信をしようとしていると、横を通りかかった誰かがそこでぴたりと立ち止まったのがわかった。あ、という私のよく知る声が聞こえた気がして顔をあげればそこにいたのは影山くん。その視線はじーっと私の手元に注がれていた。


「影山くん?」
「原さん、ガラケーじゃないのな」
「うん。iPhoneだよ」
「…………」
「…………ん?え?」
「…いや、なんでも」


影山くんはふいと顔を背けるけれど、立ち去る様子はない。どうしたのだろうか。何か私に用事かな、と思ったけれどそうではなさそうだ。
というか私がiPhoneを使っているところなんて、初めて見るわけじゃないんじゃないだろうに。この間まで隣だったのだし…。???と疑問符を浮かべながら、なにやら動きを止めて私の手を凝視している影山くんがすこし怖くなってきたころ、私はあることに思い当たった。


「もしや画面のスライドしたいの…?」
「ちげーよ」
「だ、だよね」


半ば本気で言ってみたのだがどうやら違ったらしい。影山くんはガラケーだからなぁ、とかちょっと納得してたのに。でもそれなら尚更、どうしたのだろうという疑問は深まる。

そこで突然、すっとこちらに影山くんの手が伸びてきた。ちょっとどきりとして目を見開くと、するりと持っていたiPhoneが抜き取られていた。
え、と驚きつつも影山くんの様子を眺めていると、恐る恐るといった感じで、真っ暗になっている画面に触れた。若干首を傾げながらそれを眺めまわして、最終的にボタンを押して画面がつく。
いまどき物珍しいものではないだろうし、なぜいま興味を示したのか私にはよくわからなかったけど、影山くんの瞳が悩むように細まったり開いたりするのがなんだかおかしくて、私はしばらくじっとその様子を見ていた。


「…?」
「どしたの」
「これ、何だ?」


どうやらロック画面に阻まれてしまったらしい。もういろいろ面白くなって笑っていると、ちょっとだけむっとした顔で私にそれを渡してきた。解除して欲しいらしい。四桁の数字を打ち込めば途端にホーム画面が表示される。へえ、とすこし驚いたように呟いてから、また影山くんは私の手から、こんどはちゃんとiPhoneをうけ取り、すこしぎこちなく指を動かしはじめた。よくわからないけれどまぁ、いじってみたかっただけなのかもしれない。それはそれでかわいいとこある、ってやつなのかなぁとなんとなく微笑ましい気持ちで、私はその様子を眺めていた。

じっと画面を見つめ、いろいろ動かしていた影山くんが、ふとこちらを見た。


「…あの」
「?」
「これ、もらっていいか」
「これって…………え、メアド?」


影山くんが見せてきたのは私のメールアドレスが表示されている画面だった。何を言われたのかよくわからなくてぽかんとしているうちに予鈴が鳴り、慌てて頷いてみせれば、影山くんの表情は心なしかほっとしたように見える。さっとケータイを取り出して、慣れた手つきでカチカチと操作をはじめた。途中一度だけ私を見て、ふいっと目を逸らされる。
見た感じ影山くんはなにやら余裕のないような様子だった。けれど実は、そのとき私も、それに負けないくらい余裕がなかった。


「……………」


そして、突然のことで頭が追いつかなかったけれど、授業を受けているうちに徐々に私は先ほどのことを理解していった。それと同時にゆっくりと私の頬は熱を帯びる。
これまで、影山くんのメアド欲しいなぁくらいはもちろん思ったことはあったけれど、どうもそれを口に出す勇気が無かった。…のに。


「メール…」


出来る関係になるのか。学校で話すだけじゃなくなったりするのか。そう思うと、この間のことも重なって、私の心臓は忙しくばくばくと鳴りはじめる。…たとえ他意はなく、ただ友達としてメールを交わす仲になりたかったからなのだとしても、それはそれで嬉しくてたまらなかった。



その次の休み時間、見知らぬアドレスから、[影山です、登録よろしく]とだけ書かれたメールが届いているのに気づいた。思わずぱっと振り向けばぐっすり快眠中の影山くんの頭だけが見える。どうやらこのメールはあのあと、すぐに送ってきていたらしい。気持ち良いほどに爆睡している影山くんを見て、ちょっとだけ笑ってしまった。

そしてそれから、私はどこかふわふわとした気分で、よろしくね、とメールの返信をした。
その間も、私の頬は依然としてあついままだった。

午前十時の熱源



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title:kara no kiss
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