※カウントスリー8話後
1万打記念 けいとさまリクエスト



日曜日。
午後からは秋の家で遊ぶ。お家にお邪魔するなら手土産でも買って行けと言うお母さんからお金を少しもらって、私はおいしいと評判のケーキ屋に向かっていた。

もう着くかな、というあたりで、私は思わず漕いでいたチャリにブレーキをかけた。


「……………?!」


片足をついた体勢で、じっと目を凝らして前方を見る。少し先のバス停のベンチにぼーっと座る、見覚えのある男の子…もしかして。
ーーあの横顔を私が見間違うわけがない、そうだあれは確かに影山くんだ。学ラン着てないから変な感じするけど。というか、ちゃらちゃらした感じじゃなくて、シンプルで小綺麗な私服に少しどきりとした。…なんかやっぱり、雰囲気変わるなぁ。教室での影山くんは、なんというか年相応な感じがあるけれど、身長のせいかこうして外で見るとやたら大人っぽく見えてしまう。
ケーキ屋はバス停のちょっと向こうにあるから、そばを通らない訳にはいかない。ちょっとどきどきしながらも、せっかくだから影山くんに少し声を掛けてみることにした。チャリをおりて、押しながら近づく。


「影山くん、」
「……………………………。誰すか?」
「えええっ」
「?」


振り向いた影山くんは首を傾げた。
ま…まさかの。まさかの…!学校ではなるべく話しかけてみたりしてるのに私のことがわからないのか、認識されてなかったのかと悲しい気分になった。凹む…。原千花だよ、と仕方なく名乗ると、ぼんやりこちらを見ていた影山くんの目が信じられないくらいにかっと開いた。


「は?!」
「は、はって何…?!」
「え、あ、いや」


女子って私服で全然雰囲気変わるんすね…、と驚いたように呟く影山くん。まじまじと見つめられて何やら気恥ずかしい。影山くんも最初誰かわかんなかったよ、と返すと、「そすかね…?」と、私と同じく気恥ずかしそうな表情で自分の格好を見下ろした。
なんだか大人っぽく見えていたのに、その様子のせいで一気に身近に感じられて、ちょっと笑ってしまった。




***




影山くんは今日は部活が休みで、そしてこれからシューズやソックスなどいろいろ買い足しに行くらしい。ついでに漫画とか雑誌とか買う、と言っていた。


「うまそ…」
「えっと影山くん…?」


さっきからどうも腹減って仕方ねえし、と影山くんはなんと私についてきた。バスはあと20分しないと来ないらしい。…影山くんのお腹とバスの時刻に感謝したのは秘密だ。
とにかくそういうわけで、ケーキを選ぶ私の隣には何やらいつもよりテンションの上がっている(ような気がする)影山くんがいる。…相当お腹減ってたんだと思う。
そして焼き菓子を眺める影山くんが新鮮すぎる。


「マドレーヌ…フィナンシェ……クッキー」
「食べられればもう何でもいいの…?」
「ここらへんのまとめて全部食える」
「え、ほんとに?」


ぷ、と吹き出すと影山くんはちょっとだけ不思議そうにこちらを見てから、適当にいくつか手に取った。慌てて私もケーキ選びに戻る。


会計を済ませ、店の外に出た。時計を見ればもうすぐあれから20分。ということはそろそろバスが来る。
なんとなくバス停まで一緒に歩いていると、影山くんがふと立ち止まって、「甘いもの食べられるか?」と聞いてきた。うん大好きだけど、と答えると、ひょいと何かを渡される。チャリを押していない方の片手でなんとか受け取ると、それはさっき影山くんががっと取っていった焼き菓子のうちのひとつだった。


「…これ」
「やる」
「???」
「こないだのヨーグルの礼、できてなかったから」
「え、…ああ!あれ!」


もらっていいの?と聞くと、一個余分だから別にいい、と返される。余分って、明らかにあのとき影山くんは全部食べる気でお菓子を掴み取っていた気がするのだけれど。
…でも咄嗟の思いつきでも、私にお返しをしてくれたのがすごく嬉しかった。
ぱっと斜め上を見上げると、影山くんは慌てたように向こうを向いた。…照れてるのかなぁ、と思ってちょっと笑う。


「ありがとう、じゃあもらうね」
「甘いの好きなのか」
「うん、でも辛いのも結構すき」
「ふーん?」


当たり障りのない、でも私にとっては嬉しくてたまらない、何気ない影山くんとの会話。…に、浸っているうちにすぐバス停についた。
むぐむぐと一つお菓子を開けて食べながら、影山くんはまたもとのようにベンチに腰掛ける。すぐに向こうからこちらへ来るバスの姿が見えた。影山くんも気づいたのか、めんどくさそうにお菓子をカバンにごそごそとしまい込んだ。そして立ち上がり、こちらを向く。


「…そんじゃ、俺行くんで」
「あ、うん。ばいばい」


軽く礼をして、こちらに背を向けてバスに乗り込む影山くん。
その後ろ姿を見送ったあと、影山くんにもらったマドレーヌをそっと見る。影山くんからマドレーヌ…なんだか似合わないけれど、そのせいなのか何なのかものすごく気持ちがふわふわしている。
いまからゆっくり食べて、それで明日ちゃんとお礼を言おう。

どうしようもなくゆるむ頬をおさえながら、自転車に跨る。秋の家へ向けて、自転車を漕ぎ出した。



気まぐれな日曜日



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title:kara no kiss
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