今朝、慣れない早起きをした。
寝ぼけ眼をこすりつつ、ふらふらと廊下を進む。どこで靴をぬいだかもわからないが見ればちゃんと履き替えてあって、私は大丈夫かと不安にすらなった。記憶が飛ぶほど眠いなんてことがあるのか。てか早起き苦手なんだな私、なんて改めて思う。めざまし時計何個も用意して頑張った自分を褒めてやりたい。
まわりには人は一人もいない。廊下も、そしてどの教室もがらんとしている。…なぜってそりゃあ、時間が早すぎるからだ。私もいつもならまだこの時間は家でごはん食べてたり布団で二度寝しようとしてたり着替えたりしてる。…いつもなら。
ではなぜ私がこんな時間に、眠い目をこすりつつ登校することになったのかというと。
答えは単純、課題である。今日提出のものが終わってなくて、でも昨日は眠すぎて、朝早起きしてやらなければ、と思って来た。私の部活は厳しくて、しかも顧問は私のクラスの化学担当。やらないわけにはいかない。


「あれ、おっはよー苗字さん!」
「ん?おは…よ…」


振り向くとそこには、そこにいるのが当たり前みたいな顔をしている、クラスメイトの日向くんがいた。なぜこの時間にいるのかなんて疑問が浮かぶ前に、笑顔であれこれ話しかけられる。そのまま、二人並んで教室へと向かった。
相変わらず元気だねぇ、と呟くと日向くんは首を傾げて不思議そうな顔をした。あれ今私おばあさんみたいなこと言ったかも。でも朝っぱらからエネルギー溢れる日向くんと、なんかもはや死んだも同然のテンションのいまの私とでは同い年には見えないな、なんて思う。
日向くんと話をしているとなんだか目が覚めてきたような気がして、この人はつくづく元気なんだなと実感。まわりに元気をわけ与えられるくらいには元気なのだ。名は体を表すとはよくいったものだ、ここまで名前通りの人がいるとは。なんていうか、光そのものみたいな人。
眩しくて仕方ない。


「…で、なんでこんな時間に来てるの?」
「?あー俺課題おわってなくてさ…!さすがに出さなきゃ部活あれだし」
「あ、それ私もだ」


まじでー!でもわかる、寝ちゃうよなー!なんて顔をしかめて言った日向くんがなんだか面白くて笑うと、日向くんもつられたように笑った。

机に課題を広げて、すっきりさめた目で問題を解き始める。ふと見れば向こうの席で日向くんも同じようにしていた。やがてカリカリ、と心地よい音だけが響く。私と日向くん以外だれもいない教室で、ただひたすらに課題と向き合っていると、ちょいちょいと肩をつつかれた。見ればいつの間にか後ろの席に日向くんが移動してきていて、やたらと申し訳なさそうな顔で私を見ていた。


「ごめん、ここ教えて…!お願い!します!」
「えええええ」
「たのむ!たのみます!このとーり!!」
「まあいいけどさぁ…」


急ぎます!と言うと、うす!と敬礼しつつ返された。なにしてんの。呆れつつも日向くんにわらってしまいながら、くるりと体勢を後ろ向きにして、日向くんの教えてほしいという問題を見た。どう解くんだったっけ、と解法を探る。
私がそうしている間、日向くんはじいっと私の手元を見ていた。そしてふと思いついたように、


「…苗字さんは部活、大変?」
「ん…?まぁテニスだし…大変かなぁ。てか日向くんだって大変なんでしょ」
「んー、大変っちゃ大変だけど…でも俺なんかそれがすごく嬉しくて」
「?」


問題を解く手を止めて疑問符を浮かべた私に、日向くんはきらきらした目で、バレーがどんなに魅力的か、どんなにバレーが楽しいかなどを熱弁し始めた。擬音語がかなり多いけど、どれほど日向くんがバレーというものに対して真剣なのかがすごく伝わってきて、思わず聞き入ってしまう。すると日向くんは本当に嬉しそうに、いろんなことを語ってくれた。そしてしばらくじたばたしながらバレーについて話をしてから、課題を終わらせなければいけないことを思い出したのかはっとして口を閉じた。なんていうか、日向くんはさっきからずーっと動き回ってる気がして、面白い。


「はい、解けたよ」
「?!おおおお…ありがと苗字さん!」
「あはは、どういたしまして」


そんなやりとりをしながらも、お礼を言いたいのは私のほうなんだけど。なんて気持ちになる。ありがとー!と言って自分の席に戻った日向くんは、また課題に取り組みはじめた。

一緒に話してて全然飽きないし、見ていてすごく面白くて、1日乗り切るくらいの元気ももらえた気がして。
そんな日向くんに対して、ふいに感じたこの気持ちが何なのか、きっといまにわかるだろう。

私今日早起きしてよかったかもなぁ、なんて思った朝だった。



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