恋とか好きとかよくわかんねぇ。…というのが、結局まぁ俺の正直なところであり。日向をはじめとするバレー部員たちが、やたらとこないだのことを気にするのが、なんだか段々煩わしくなってきた。
「…影山」
「…なんだよ」
「…お前…ついに高校生としての華々しい第一歩を踏み出したのかそうなのか…っ?!」
「あ?言ってる意味がよく…」
「影山がバカなのは知ってる!けどさすがに俺の言いたいことは通じると信じてる!!」
「あ?!んだと日向ボゲ!!お前も俺とたいして変わんねェだろ!!!」
昼休み。職員室前で、俺と同じく呼び出された様子の日向と顔を合わせた瞬間始まるこの会話。
正直、いいかげん疲れた。田中さんの発言以来ほんとに、俺は周りに振り回されすぎだったということに気づいて、少し落ち着いてみることにしたのだ。…もういいだろ、あの日はほんとに何もなかったしここまでくると逆に原さんに失礼だろ。なんだみんなして「付き合うのか」だの「おめでとう」だのと。うるせぇな。原さんがあれから部員たちと出くわしていないことを祈るしかない。さすがに申し訳なさすぎる。
はーあと溜息をついて、なあなあどーなんだよーっとごねる日向の頭をとりあえず一回殴ってから、日向がうおあ、とうずくまったその隙に職員室に滑り込んだ。後ろで何か文句を言っているのが聞こえたが気にしない。
……あのときは本当にどうかしてたんだと思う。なんで連れ去るようなマネをしてしまったのか…田中さんのあの発言のあとで二人きりの状況になって平静を保てるわけがない。意識しないでいられる状況なわけがなかった。
しかも質問が質問。あれはおそらく日向が聞いて欲しいとでも頼んだんじゃないだろうか。いやわかんねーけど。原さんを連れてあの場から逃げたのはさすがにやり過ぎたと思うが、でもあのギャラリーに聞かれなかったのだけはよかった。
ただその後の帰り道、女子と二人なんて初めてだったけれど、なんとなくそれを居心地よく感じたことが、少し引っかかっている。そして原さんの腕を引きあの場を離れたときに一瞬脳裏によぎった、囲まれる原さんの後ろ姿と、連れて逃げることへのわずかな優越感のようなものも。
教室に戻り席につくと、頭に何かが乗った。
「はい、ぐんぐんヨーグル」
「?え」
落ちそうになったヨーグルを慌てて掴み、振り向くと原さんが笑って立っていた。その手にはもう一本ヨーグルが握られている。
「職員室呼び出しって、補習の話だったんじゃないの?」
「あー、まあ」
「私、元気づけには飲食物を与えるのが一番いいと思うんだ」
だからこれ、余分に買っちゃったやつあげる、と言われた。つまり俺はなんだ、処理係か。てかペットかよ。不服そうな顔をしたのがばれたのか、原さんはまた笑った。というか俺は元気がないんじゃなくて、単に考え事をしているのだ。…まあ原さんについてのものなのだけれど。
「俺別に元気ないとかじゃ。補習は…、めんどくさいけど」
「そなの?うーん、えーっとじゃあ、……そうだ!補習頑張れ的な!」
「応援的な?」
「そうそうそれそれ」
「ん……、ども」
じゃあ今度なんか奢る、かも、と何気無く言うと、原さんはぱっと嬉しそうに顔を綻ばせた。本当よく笑うよな、とふと思う。あのときもあのときも、と思い浮かぶ瞬間はどれも俺に対して笑いかけてきているもので、すこし柔らかい気分になった。
ーーー恋とか好きとかよくわかんねぇ、今は。なんかめんどくさそうだし。色恋にうつつを抜かしてる暇はないし。
だけど、原さんの笑顔は好きだな、となんとなく思った。
無自覚にダイビング
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kara no kiss