「影山くん…なんで私たちこんなとこまで逃げてきたの?」
「なん…なんとなく……?!」
「え、な、なんとなくって」
「も!元はといえば原さんが突然へんな質問してこようとしたのが……!」
「??!ごめん?」
「いや別に…!!!」


どーせ日向が原さんに妙なこと言ったんだろ、悪いのは日向だ…!と、影山くんは腹立たしそうに言う。どうやら見抜かれていたようで、ごめん日向、と心の中で日向に謝った。

ちらっと見ると、影山くんはなんだか余裕がない様子で目がぐるぐる泳いでいた。そういえばいつもの敬語もちょいちょいどこかへいってしまっているし、それはそれで距離が縮まったようで嬉しいんだけど……にしても、なんでこんな焦ってんの?!
さっきまで、自分でも嫌というほどに火照っていた頬が、そんな影山くんを見ているうちに徐々に落ち着いてきたのがわかる。…私の腕にはまだ、掴まれてた感覚が残ってて、下手したら今すぐにでも死にそうだけれど。
一ヶ月ほど前まで、怖い人だと思ってびくびくしてた自分に、この影山くんを見せてやりたいと割と本気で思った。

…ていうかここ、どこですか。




結局現在私たちは、日が暮れてオレンジに染まる空の下、今更あの中に戻るわけにもいかず、なんともいえない距離を保って二人並んで歩いていた。(どうやら道がわかっているらしい影山くんに、私は途中まで送ってもらうことになった。)
影山くんは横でむむむと何やら考え込んでいる。私はというと、そんな影山くんにちらちらと視線を遣りながら、先程の会話を思い返していた。


ーーーーいや俺、好きな女子とか、いないっすよ。


私の問いかけに、影山くんはそう答えた。そこまではよかった、なんとなく私の想像していた通りだったから。でも、「……多分」という呟きがあとから聞こえて、思わず吹き出した。

日向のあの、影山くんの好きな女子を知らないかという爆弾発言後、私の頭の中はそれでいっぱいだった。影山くんに好きな人。好きな人…。
ーーーだけど、ふと思ったのだ。どうにも影山くんには失礼かもしれないけれど、こう、似合わないというか…影山くんが誰かに恋をする、というのが想像し難かった。隣の席である以上、以前より多く影山くんとは接するわけで、そうするとわかるのだ、どれほど影山くんが、バレーを好きなのかが。だから私の印象としては、好きな女子がいるにしても影山くんは、バレーをとるんだろうなって思っていた。
だから、あの質問は、確認みたいなものだ。多分、というのが気になるところだけれど、きっと今はまだバレーの方が優先なのだろう。そのことに心のどこかで安心する自分がいた。


「…にしても多分って、影山くんさ」
「自分でもわかんねーよもう………」
「ちょ、待ってショートしないで」


ふーらふーらと歩きながらも、影山くんは歩くのが速い。というか多分足が私よりずっと長いのだ。早足で追いかけると、ちょっと歩調が遅くなった気がしなくもなくて、少し嬉しい。
…そしてもしかしなくとも今、私たち二人は、付き合ってる男女に見えるのかもしれない、という若干今更な発想にたどり着いた。
影山くんが今までにないくらい焦っていたのとか、それが原因だったりして、なんて願望混じりの妄想もふくらむ。もしそうだったら、かわいいとこもあるなぁ、とか思ったり。





しばらくそうやって、ぎこちないながらも私としては楽しく歩いていると、やがて私の知ってる道に出た。意外とすぐにたどり着いたので、少し残念な気持ちになる。


「影山くん、私、ここ曲がればもう分かるよ、道」
「え、あ…そっすか」
「うん。えーっと…なんていうか。ありがとう」
「…おう」
「また、明日ね」
「……おう」


おうしか言わないじゃん、と笑うと、ふと何かものいいたげな顔をした影山くんと目が合った。

心臓がどくんと跳ねて、なんだか目をそらせずに見つめ返す。夕焼けの中、立ち止まり向き合う私と影山くんしかここにはいないみたいな錯覚に陥りそうになる。
まっすぐ私を見つめる影山くんには、さっきまでの焦った様子は微塵もなかった。…なんで、急に、そんな顔を。


「……また明日な。原、さん」
「…っう、ん………
…………………〜〜〜っ」


いくらなんでも今のは、嬉しかった。好きな人ってこんなにすごいのか。明日な、なんて一言だけでどうしようもなく幸せな気持ちにしてもらえる。
腕を引かれあの場を立ち去ったとき以上に火照りだした頬を見られたくなくて、急いでくるっと振り向いて、「じゃあねっ」と言って早足で歩き出した。



影山くんの好きな女子。バレーに対する影山くんの思いを多少なりとも知っているからこそ、告白だとか、付き合うだとか、そんなことは考えもしてなかったけれど。
どきどきと異様にはやまっている鼓動に自分でもびっくりしながら、それが私だったらいいなぁ、とふと思った。

シュガー・ビート



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title:kara no kiss
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