ずっと、田中さんの言葉は俺の頭のなかにあって、そしてものすごい存在感を放っている。

”好きなんじゃねーの”…って、いくらなんでもあり得ない。あり得ない上にそんなことをしている余裕があるつもりもない。今自分が打ち込むべきことが何なのかなんてわかりきっているし、…そう思いながらも、その言葉が未だに頭の中に引っかかっているのは、何故なのか。


キュキュキュ、と小気味良い音の響く体育館。誰もが汗だくで、ただひたすらにボールを追い続ける。走り込み、ボールを追い、また走り、と何も考えずひたすらバレーと向き合う放課後。
今はこの時間がありがたいとすら思えた。余計なことを考えている暇がない。




ーーー部活を終えて、いつものようにどやどやと体育館を後にした。部活後の心地よい疲労感とともに坂を下る。他のメンバーたちと他愛ない話をしながら帰るのにもなんだか慣れてきた、
とそこで、前方に知り合いにものすごくよく似ている、っていうかもはや知り合いそのものの後ろ姿を見つけた。


「あれ?原さんだー!!おーい!」
「?!ちょっ」
「?」


呼び止めようとする日向を思わず制止しかけて、なんで?という顔をされ、止めるに止められなくなる。おーつーかーれー!と大声をあげて駆けていくバカに頭を抱えた。…そういえば原さんが以前、日向と知り合いだという話をしていた気がする。


「あ、影山くん、部活おつかれ」


二人のところに追いつくと、原さんは笑って声をかけてきた。うす、と返すとおかしそうに笑われて、なんで笑うのかとちょっとむっとする。日向が何やら不思議そうにこちらを見ているのが気になった。


「何、だれ?」
「おおお女子だ誰だ」
「俺の同中の人だったんですー!」
「へぇぇ、日向の」
「そんで影山の今のクラスメイトで」
「あ、はい、こんばんは、お疲れ様です」


追いついて来た騒がしい軍団に取り囲まれ、若干戸惑い気味の原さんが話しかけられはじめる。

そうしてしばらく、俺はなんとなくほっとしたような、それでいて物足りないような感覚を持て余していた。なんだかんだと楽しそうに話に加わりはじめた原さんに、何やら複雑な気分になる。ーーーいつもみたいに俺に話しかけに来たんじゃないのかよ、と言いたくなった。そしてその直後、俺はなにを考えてるんだと自分に驚いた。
多分これはすべて田中さんのせいだ…田中さんのせいでこういう発想に行き着くのだ…。
あああああ何なんだよこれ、と頭を抱えそうになったそのとき、突然くるりと原さんがこちらに振り向いた。


「?!」
「…あのさ影山くん。私ちょっときみに聞きたいことがあって」


そして周りを振り切り、じりじりと、何やら深刻な表情で俺の方へやって来た。じりじり。じりじり。思わず俺も後ずさりをすると、むっとしたのか原さんは一気に俺との距離を詰め、がしっと俺の腕を掴んだ。


「あのね、私影山くんのす「ちょっ、と、…こっち!来てください!」
「?!うぁっ」


この原さんの表情からして…何を聞かれるにせよ、この場にいてはいけないと直感した。きっと何かとんでもないことを言い出すのだろうということだけはわかったのだ。そしてそれは後ろのあのギャラリー…すでに顔が好奇心に満ちていたあの連中には、出来るだけそういう話は聞かせたくはない。

咄嗟に、さらりと質問を口にしようとした原さんの、俺を掴んでいる腕を逆に掴み返して、ぐいと引っ張ってその集団から引き離した。え?え?と後ろから聞こえる原さんの声を無視して、とりあえずこの場を離れなければ、と逃げるように小走りで脇道に逸れた。…冷やかすように何か言われていたのは、聞かなかったふりをする。



「…………あー、えっと」


そしてその判断を、俺はすぐに後悔することになる。


しかしながら悪化の一途



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title:kara no kiss
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