がっしゃーん。まさにそんな感じだった。


「っわごめんなさいっ!…って」
「いや…こっちこそぼーっとしてたんで、すみませ…ん?」


よくもまあ、角を曲がったらどーん、なんてベタな展開があるもんだ。ぶつかるっつーかむしろ俺が追突した、って感じだったけど。
幸い俺のチャリのカゴが少し凹んだだけで済んだみたいだった。引き起こしながら立ち上がってよく見ると、そこにいたのは同じ高校の制服を着た女子。顔も見覚えある…そうだ同じクラスで名前はたしかー…えーっと


「原さん?」
「っ!う、ん。あー…こちらこそぶつかっちゃって、その」
「いや…べつに俺は。そっちこそ大丈夫すか」
「うん。どうも、」


原さんは慌てて立ち上がりながら、ぱぱぱっと身なりを整えありがとう、ともう一度言った。チャリを引き起こすのを手伝おうとすると「い、いや大丈夫です」と言う。なんか知らないけどこっちを見ない。怯えてるっていうか、慌ててるっていうか。日向に、影山は怖い!と断言されたことを思い出してすこし腹が立った。…親切心で言っているのに。よくわからないがこいつ、変なの。

ーーーまあ本人が大丈夫って言ってんだし、大丈夫でいいか。

というかこのままでは学校に遅れる。自分を納得させて、チャリに跨ろうとして、気づいた。


「…いやいやそれ」


よくみると原さんのソックスには血が滲んでいて、擦り剥けたところもある。見るからに痛そう。大丈夫じゃねぇだろ全然。
時計を見たら時間はまだ余裕がある。


「原さん」
「?!…な、何」
「座ってくださいその場に」
「はい?」
「ほっとくのもあれだし」


びっくりした様子の原さんを無理やり歩道のすみに座らせ、スポーツバッグから消毒液を取り出すと、途端に原さんの顔が青ざめた。


「…影山くん。なんでそんなのもってんの」
「部活で使ったり使わなかったり。まぁ今日持ってるのはたまたまなんすけど」
「………あ、あのね、影山くん。私にそれは必要ない…です…」
「このままだと原さん死にますよ多分」
「死なないです!……ったぁぁぁ!!!!」


うぁ痛い!と顔をしかめる原さん。涙目で1度俺を睨んだが慌てたように視線をそらし、「っ…ありがとうございます」と呟くように言った。




ーーーどくん、


…え。なんだ、今の。
一瞬なんだか頭がまわらなくなった。くっきり原さんの表情が見えて、それから、じわじわと何か、今までにないような、妙な感じがしてくる。なんだこれ?…ただひとつわかったのは、俺の中の原さんの印象がいまここでがらりと変わったということだった。俺はもともとこの人のことをよく知りもしないし、数回必要な会話を交わした程度。なんか勝手に、人見知りっぽい人だなーなんてイメージをもっていたのだけれど…案外こんな顔もしたりすんだな、と思った。

そこではっと我に返って、いくつか絆創膏をぽいっと手渡した。時計を見るとさすがに時間がギリギリだった。結構頑張らないと遅刻してしまう。数学の教師に文句言われる。


「…早く行かないと多分遅刻しますよ」
「あ、わ、わかってる!」


後ろで原さんが慌てて立ち上がるのを確認して、一瞬よぎった妙な感情を掻き消すように、ペダルを踏んだ。



予感の隣を歩いてく



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title:kara no kiss
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