午後5時。試合を終え、体育館の後片付けもあらかた終えた。女子二人が試合を見に来ることを了承してくれた澤村さんに改めてお礼を言い、冷やかしにかかってくるバレー部員たち(主に日向、田中さん、西谷さん)を総スルーして、体育館のすみへ向かう。ただなんとなく腹は立つので、とりあえず日向の頭を叩いておいた。
ぽかんとした顔で、なんかもう動けないです、と顔に書いてあるような表情をして、正座のまま動かない原さんに、すこしの間待っていて欲しいと伝えた。原さんはぎこちなく無言で頷いてみせる。…何か様子がヘンだが、またあとで改めて話を聞くことにした。
そして、離れたところから立ち上がり近づいてきた川衛とともに体育館を出た。

雨があがり、夕方ではあるが蒸し暑い外。体育館から少し離れた校舎裏、改まって向き合うと、なんだか変な感じがした。
昨日、川衛から突然、[明日練習試合みにいってもいい?ちょっとそのあと、話したいことがあって]というメールがきた。その文面からして、なにか大事な話があるのだろうと想像はついたので、原さんと話をする前に、と思ったのだ。


「…練習試合、お疲れ様」
「ん?ああ」
「そんで、来させてくれてありがと!いまも…なんか無理いってごめん」


このあと原さんとなにかあるんでしょ、と静かに言う川衛の様子はいつもよりすこしおかしい。
すうっと息を吸って、しばらくぐっと唇を噛み締める。言わなきゃ、ちゃんとくっついちゃう前に、という呟きが聞こえて俺が首を傾げていると、川衛はゆっくりと口を開いた。


「わたし、飛雄がすきだよ」
「??!っ、」


何と言えばいいかわからず、ただ目を見開いて固まっていると、俺を見据える川衛の表情が、緊張したものから呆れたようなものに変わった。


「なんでそんなに驚くの…」
「い、いや、おま、え」
「普通わかるもんじゃないの、この状況になったら…!」


肩を震わせながら、鈍すぎでしょ!と怒る川衛が、なんだか知らない女子みたいだった。頬を染め声がすこし上ずっている。


「ずっと…中学からずっと。飛雄がすきだった。さっきの試合とか、すごく、かっこよかった。…やっぱすきだなぁって、思ったよ」
「…………」
「ねえ返事、は」


ぐっと言葉に詰まった。返事、返事ってなんだ、ああ告白に対してのか、
なんというか、想像以上に焦っている自分に焦る。はやく答えを……相変わらずな自分に呆れるのだが、そこでやはり俺の頭に浮かんだのは。


「っ、〜〜〜、お、れは…その。
すきな、奴がいる」
「…………」
「だから、川衛の気持ちには、応えられねえ、」
「…あのときも、そう言って断ったの?」
「は?」


絞り出すような声で、川衛が言ったことの意味が、すぐにはわからなかった。しかし、「こないだ、告白されてたでしょ。1組の子に」と続いた言葉で思い出す。そういえば。


「見てた」
「????!なっ」
「いやほら、たまたま見かけて!」
「お、おう…」
「あのときと、おんなじ顔して、断るからさぁ」


あの子とわたし変わらないのかぁ、と笑った川衛はいまにも泣きそうに見えた。
そして俺は今更ながら、この間もいまも、断るときに同じ人物を頭に思い浮かべていたことに気づかされたのだった。







体育館へ戻ると、部員たちはすっかりはけていた。見回すと、ひとりバレーボールを手に、すみでじっと座っている原さんの後ろ姿を見つけた。
キュ、というシューズの音に気づいたのか、原さんがこちらを振り返る。すこしだけ不安そうな瞳が俺を見つめた。近づいて行くと、原さんは立ち上がった。


「待たせて、悪い」
「えっとうん、大丈夫。あとこれ、先輩が」


差し出されたのは鍵だった。体育館の。


「外で待つから閉めていいですとは言ったんだけど、なんかよくわからない…」
「………はあ」


女子二人が来ることを話したとき、なんだお前青春か!と言っていた田中さんを思い出してしまった。おそらく田中さん…か西谷さんがこの状況にさせたのだろう。しかし体育館まるまる開け渡すとはやり方が謎すぎる。あの二人にとっての青春って一体何だ。


「あの、さ」
「!……ん?」


話って、何?と聞く原さんの表情はなんだか固かった。すこしだけ心が折れそうになる。…川衛やあのときの女子はこんな気分で俺のところに、とはじめて、これがどれほど緊張して怖いことなのかを思い知らされた。
原さんの揺れる瞳を、まっすぐ見つめた。


「…原さん。俺、」




変革は3分後、



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