教室の真ん中のあたりに座る、原さんの頭がかくっと揺れる。寝てんのかよ、と呆れるような気持ちで思うが遥かに寝ている回数の多い自分の言えたことじゃない、と思い直した。

原さんの様子がおかしくなってから数日が経った。その間に席替えが行われたため、俺は教室の1番後ろの席、そして原さんは教室ど真ん中の席にわかれた。
こうなってしまっては、もはや俺と原さんが関わりをもつことはしばらくないのかもしれない。
そう思い至ると寂しいような、なんともいえない気持ちになるがまぁ正直、持て余していた感情に振り回されることも減るのだと思うと、ほっとしている自分もいる。なんだかんだいって、やはり慣れない感覚に戸惑っていたのだ。
…なんて、ここ数日ごちゃごちゃ考えこんでしまっている自分が、らしくなさすぎてほとほと呆れる。ため息をついて、俺もやがてゆっくりと目を閉じた。




ーーーそして、だ。
起きたら目の前に原さんがいた。
は?
起きたら。いた。は?え、なん、
いや幻覚とかそんなんじゃなく。そんなんじゃなく。
前の席に寄りかかるようにして立ち、こちらをちょうど見下ろすようにして。
ばっちり正面で目があって、原さんはびっくりしたような顔をしたあと、決まり悪そうに笑った。

俺はひたすら今たぶん、あほみたいな顔をしている。


「………………え」
「は、はは…」
「………………」
「お…おは…よう」
「…おう」


すっかり眠気はふっ飛んでしまった頭をフル回転させて考える。今何時。なんで目の前に原さんがいる?つかなんでこんなに気持ちが浮ついてんのかがわかんねぇ。びっくりするくらい鼓動がどくどくいっててうるさい。…久しぶりに合った目が、やけに懐かしく感じる。


「今、何時、」
「えーっと…うん。三時間目だよ」
「あー…もしかして」
「あはは、そだよ、寝過ごしてるよ」


確かこないだもだったよね?と言われてあのときの苦い記憶が蘇る。俺が寝ぼけてなんか言ったことに、原さんが笑ったんだったっけか。
つーか今、普通に話してんだな、と今更ながら思った。唐突すぎてついていけてねーけど。でも、多少違和感はあるけれど、やっぱり原さんといる時の空気感はどうしようもなく居心地がいい。
なあ、と、授業が始まってしまっていることも忘れて何気無く声をかけようとすると、原さんが遮るように、後ろを振り向いてそばに置いていたらしい教科書を抱え直した。
ぽかんとしているうちに、原さんは慌てたように口を開いた。


「…そ、それじゃ私、行くね。影山くんも急いで来なね!」
「え、」
「まだ、先生来てなかったし。今日ちょっとだけ自習時間あるらしいし…いそげば間に合うよっ」
「………っおい、」
「?………???!」


ーーーなんでここ数日様子がおかしかったのか。なんでいまも少しぎこちない笑い方なのか。あんなに合っていたはずの視線が合わなくなったのはなぜなのか。
ぜんぶきっと理由がある、じゃあその理由は何なのか。
そして。なんでさっき、寝ている俺を見てた?あんなに、優しい顔で、俺を見ていたのはなぜ。
まず、授業がはじまっているというなら、なぜここにいるのだろう。
考えても考えても俺にはわからないのに、原さんは何も言わないつもりなのだろうか。
たかが一ヶ月、隣だっただけだから?

そんなの勝手すぎる。…本当は俺の方が勝手だなんてわかってる、たいした間柄でもないくせに何言ってんだって感じだ。でも。…でも。



いつもよりテンポの速い自分の鼓動の音に、自分でも驚きながら、その場を立ち去ろうとする原さんの手を俺は咄嗟に掴んでいた。
原さんの体は少しだけ、震えていた。
きっと君しか知らない青



back
title:kara no kiss
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -