はあああ、と溜め息をつき、ぼふんとベッドに倒れこむ。なんでこんなに疲れてるんだろう…そしてなんでこんなに物足りない気持ちなんだろう。
そのままじっとしていて思い浮かんだのは、やっぱり昨日のことだった。


ーーー川衛ですけど、と名乗った例の女の子。影山くんと同中だったことを私に簡単に説明してから、適当に見つけた公園のど真ん中で、川衛さんは俯いて、静かに涙を流し始めて。え、と戸惑っていると突然、私の何倍も大きいんじゃないかと疑いたくなるような瞳に涙をいっぱいに溜めて、きつく私を睨んだ。


「先に好きになったのは、私だよ」


何のこと、と聞こうと口を開きかけて、そこでやっと意味がわかった。…影山くん、のことだろうか。というか私は川衛さんを、影山くんと一緒にいるところしか見ていないから、それ以外に思い浮かばない。
川衛さんは涙を悔しそうに拭いながら、続ける。


「…ほんの一ヶ月ちょっとくらいしか、一緒にいないくせに、何なの?」
「え?」
「意味わかんない、原さんも飛雄も!」
「いや、あの、え…?」
「早すぎるでしょ!付き合うとか!何なわけ!ノリだったとかだったら殺すけど!」
「?!!!!ちちちちょっとまっ」
「誤魔化さないでよ!」


飛雄の視線見てればわかるんだから、っていうか飛雄にさんざんあんたの話は聞かされてるんだから、なんて早口で言い切って、またきゅっと口を結んで涙をこらえる。私はというと、今川衛さんなんて言ったんだ、と混乱のまっただ中にいた。


「えっとあの、私べつに影山くんと付き合ってたり、なんて…!してない!よ?!」
「っ…は?!嘘言わないでってばっ、飛雄はねぇ!わかりやすいくらいばかなの!わかるの!何考えてるかなんて!」


だからぁぁ、とまた溢れ出した涙に自分で戸惑いながら次の言葉を続けようとする川衛さんをとりあえず落ち着かせようとする。そのあいだも私の頭の中はぐるぐると高速でフル回転していた。…なに、影山くんの気持ちはわかりやすくて、それで川衛さんは何か勘違いして私を探して、そして、何て言った?
それってつまりそういうことなのだろうか?影山くんをよく知る川衛さんが勘違いするくらいには、影山くんは私を、?
突然すぎて頭が追いついていないけれど、ゆっくりと体が痺れるような感覚がしてくる。影山くんが、もしかしたら、もしかしたら。


「…私は諦めたくない」
「え、」
「突然現れたやつなんかに、かっさらわれてたまるかっ」


ふわふわとしはじめていた私の頭の中を思いきり断ち切るように突然そう宣言し、躊躇いがちにのばしていた私の手を振りほどいて、嵐のように川衛さんは去った。






昨日のことだけれど、はっきり頭に残っているやりとり。


「まっすぐすぎる…」


おそらく恋敵と思われる女子にあそこまで正直に、影山くんについて思ってることを言ってしまうなんて。影山くんと仲良くするって、ああいうまっすぐな子じゃなきゃ無理なのかもなぁ、と嫌味なんかじゃなく素直に思った。
そしてきっとまっすぐ影山くんが好きなんだろう、川衛さんは。

ーーー先に好きになったのは、私だよ

ふと蘇る言葉。恋愛に時期は関係ないとはよく言うものだけれど、あの川衛さんの表情はあまりに切実で、思い出すだけでぎゅっと胸が締め付けられた。…関係なくなんかない。一ヶ月二ヶ月分くらいしか影山くんをしらない私と、まるまる三年間とちょっとの分影山くんを知ってる川衛さんとでは、きっと好きの深さが違う。
だから。
川衛さんの発言からなんとなく知った、「影山くんの思っているかもしれないこと」には、素直に期待の気持ちを持てない。もしそうだったら?これまで私はそうなることに憧れていたし、今だってそうだけれど、でも。
影山くんの隣に、あんなにまっすぐな川衛さんが、すでに候補としていたのだ。それはきっと高校に入るずっと前から。…だから、選ばれるのが私でいいわけない。

諦めたくない、そう言った川衛さんの表情が頭の中にちらつく。


ーーー期待とか焦りとか不安とか、まただんだんいろいろ混ざってごちゃごちゃしてきて、どうしたらいいのかがもう全然わからなくなる。


明日も、影山くんと、ふつうには喋れないかもなぁ。なんて考えてしまって、また溜め息をついた。1日遠ざけ続けて、この疲労感。私はどれだけ影山くんが好きなんだろう、と頭を抱えたくなりながら、部屋の電気を消した。
ソルティライチの溜息



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title:kara no kiss
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