ほぼ活動を停止した、ぼーっとした頭を振りながら、やっとの思いで顔を上げる。ねむい。見れば影山くんも、同じタイミングでゆらゆらと頭を上げた。


「次何だっけ、授業…」
「………あー…たしか数学…」
「そっか…」


課題は出てなかったはず、とぼんやりした頭で思う。いまにも瞼が落ちそうだ。先程の授業は古文で、あまりにもゆったりした話し方をするおじいちゃん先生の声にやられた。多分影山くんもやられた、んだと思う。気づいたら授業が終わってしまっていた。
半分寝ぼけたような状態のまま、いつもの五倍くらい遅いペースで会話が続く。


「…眠いね」
「あれは地獄だろ…」
「うん…」


あれは、っていうか。いつも影山くん寝てる気がするんだけど、という言葉は飲み込む。
…にしても頭が働かない。自分でも、あんなに深く眠り込むとは思わなかった。さすがに二人並んで寝てたら先生にも気づかれただろうなあ、と思って少し申し訳ない気持ちになった。


「……夢に原さん出て来てびびった…」
「え」
「なんかめっちゃ怒ってた…」
「え」


半開きの目を擦る影山くんに、すげぇ怖かった、と言われ嬉しいやらかなしいやら。影山くんに怒ったこととかないのになんで…他でもない影山くんの夢に登場できたことに喜んだ数秒前の自分がにくい。
なんかそれ聞いて目が覚めたかも、と言うと、影山くんはふいに含み笑いらしきものを浮かべてこちらを見た。


「………………」


目、覚めました。





午後5時。帰路について、ゆっくり歩きながら、午前中に見た影山くんのレアな笑顔を思い出す。たまにバレーのことでも考えているのかニヤニヤしてる時はあるけれど、あそこまで自然に笑ったのははじめて見たかもしれない。
すっかり緑に変わった木々を見て、もうすぐ夏か、いやその前に梅雨だなあなんて考えつつ、歩く私の足取りは軽い。
ーーー寝ぼけてただけなのかもしれなくとも、あれはかなり嬉しかった。


「…ずるいなぁ」


なんかもう腹立つくらい。影山くんはずるいと思う。なんで笑うだけであんなに…あんなに…。
思わず頬が緩む。以前までは、仏頂面の影山くんしか知らなかったけれど、なんだか最近一気に近づけている気がする。こうも自然に話しができるようになって、なんだか急速に距離が近づいているように思う。

もうあまり、次の席替えまで日がないけれど。まだ影山くんのいろんな面を知りたい、と思った。


「あの」
「っはい?!」
「…そんな驚かなくても」


思いっきり浮かれていたためか、後ろから突然かけられた声に必要以上にびっくりしてしまった。
慌てて振り向くと、そこにいたのは、見覚えのある女の子。


「”原さん”、だよね?」
「…え、っと。そうです」


耳に残っている、あのときの、影山くんに向けて笑顔とともに発せられていた明るい声。今は打って変わって何やら不穏な雰囲気を持っているそれに、私はただ戸惑うしかなかった。



夕焼けはまだ来ない



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title:kara no kiss
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