最近、やたらと原さんと目が合うようになった。もしかするとただの俺の勘違いなのかもしれないけれど。
隣の席に座っているときすら、あの距離で目が合うのだ。そして決まって、原さんは目が合うとなにやらびっくりした顔になって、でも慌てて目を逸らすことはない。笑って前を向いたり、そのまま話しかけてきたりと、そこから自然に接してくる。それがまたなんだかよくわからない。
目が合うと、俺は不思議な引力に引かれるような感覚がして、思わずじっと見つめ返してしまう。なんで見てんだよ、とは言えない。たぶん俺も見ようとして見てるから、目が合うのだと思う。
二人とも、お互いを、気にしている。目で追ってる。
これは何を意味するのだろう。




「…………、」
「だ、だめ…かな?飛雄くん」


そしてそんなことを、俺はなぜ、こんなときに考え始めたのだろう。
さきほど見ず知らずの、おそらく同学年の女子生徒に話があると校舎裏に呼び出されて、行ってみると告白というやつをされ今に至る。頬を染めて俺に好きですと伝えたこの女子を見ていて、なんとなく原さんが思い浮かんで。

…飛雄って名前を、原さんに呼ばれたらどんな感じなのだろう。好きだと言われたら?そのときも、俺は、別のことを考えている余裕があるだろうか。

いや、とそこでやっと気づいた。え、俺今なに考えてた?


「と…飛雄くん?」
「えっと…その」


告白か、とわかったときから、部活に集中したいからという理由で、断るつもりでいた。なのに。


「俺、すきな
…………………すきな…?」
「…??え?」
「あっや、俺、部活に集中したいんで。悪いけど…」
「…そっか」


それなら仕方ないね、とちょっと涙を目に滲ませながらその女子はすぐにいなくなった。でも、申し訳ないことに俺は泣かせてしまったことに対して慌ててる余裕が無かった。


「……さっき俺…好きな奴いるからって…………言いかけた…?」


田中さんの言葉が浮かんできたわけでもなく。ただ自然に、口から出そうになったセリフ。つまりは俺が思ってることそのものなのではないか。
口元を手で覆って、そんなはずはないと思い込もうとする。ーーーしかしそれ以外に何がある?すきなバレーをやりたいから、と言うのではなんだか無理がある。というかああ言ったとき思いっきり頭の中には原さんがいたのだ。

ーーー俺の言葉ひとつひとつに、笑みを浮かべる原さんが浮かんだ。
たまに古文と化学の授業中に寝てる。昼休みには友達と喋って楽しそうに笑い声をあげる。体育の授業じゃ心底嫌そうな顔をしながら走る。甘いものが好き、でも実は辛いものも好物。数学の教師があまり好きじゃない。
隣の席になってしばらく経つが、俺はこの期間にしては原さんのことを結構知ることができているのかも、とすこしびっくりした。まだ話すようになって、一ヶ月も経っていないのに。
そして次に思い浮かんだのは、夕焼けのなか、じゃあねと言って向こうへ歩いていく原さんの後ろ姿。隣を歩いてて何やら居心地よく感じたこと。
いつだったか、チャリで追突事故みたいになって、涙目ながらお礼を言われたこと。


「……あー」


なんだよこれ。
認めざるを得ないのか、と思った。
好きとか。恋とか。どうでもいいし面倒だし何より自分とは無関係なものだと思っていた。でも多分、このどうしようもないふわふわゆるゆるした感覚は、俺が知らず知らずのうちに自分から遠ざけていたそれなのだ。


「だからって、どーすりゃいいのかなんて、わかんねーけど…」


情けないことに。と、自分でも呆れるような結論付けに少し笑った。なんだこりゃ、慣れねえ感覚だな。田中さんや他のバレー部員たちは、俺がこうなることをあの時点で気づいていたのかと思い、尊敬すらしそうだった。


そこで清掃活動の音楽が流れ出し、校舎裏のここにもどやどや人が向かってくる気配がした。俺は慌ててその場を離れた。






ーーー遠くから、俺を見つめるひとつの視線には、気づかないまま。



虹のはじまりを識る



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title:kara no kiss
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