今年も巡ってきた冬の季節。
ぴゅうと吹き付けてくる北風にしばらく身を縮めていると、やがて向こうからやってくる背の高い人影が目に入った。学ラン、斜めがけのスポーツバッグ、青いマフラー。見れば今日もぐるぐる巻きのマフラーに半分くらい顔を埋めていて、思わず頬が緩む。寒そうにしているその様子がかわいくて結構好きなのだということは、そういえばまだ本人には言ったことがない。


「飛雄くん。おつかれさま」
「おう、…待たせて悪い」
「うん、大丈夫大丈夫。でもどーしたの?」
「…なんか先輩たちにオセロの勝負仕掛けられた」
「オセロ?」
「誰かが持ち込んだやつ」
「へー!楽しそう」


でも飛雄くんなんか苦手そうだね、と含み笑いしつつ続けてみたら、飛雄くんに無言で軽く頭を小突かれた(どうやら図星だったらしい)。そしてむっとした顔のまま、飛雄くんは私の右手をとる。自然な流れになりつつあるこの動作だけど、未だにきゅっと心臓が掴まれるような感覚はある。何も言えなくなって、手袋越しに伝わる飛雄くんの熱にどきどきと胸を高鳴らせながら、私は飛雄くんと共に校門を出た。
二人並んで、ゆっくりと坂を下っていく。






坂ノ下商店にとりあえず寄って体を温めた後、肉まん片手に二人してバスに乗って駅まで来た。実はこれは、数日前の飛雄くんの提案である。ーーーよくわからないけれど、飛雄くんはどうも今日この日、私との時間を作ってくれるつもりだったらしいのだ。春高に向け、最近は放課後遊びに行ったりするのも控えていたから、私は内心かなり飛雄くんの提案には驚かされてしまっていた。

とにかくそういうわけで現在、まずは駅のそばの小さな雑貨屋に入ってみたわけだが、先程からどうも飛雄くんからの視線が痛い。じっと凝視されている気がして、恐る恐る隣を見たらぱっと目を逸らされる、というのを何回か繰り返している。雑貨屋を出て、いろんな店をぶらぶらしはじめてからも、それは続いた。


「あ、あの、かげ…飛雄くん」
「?」
「な、何か用ですか…」


お腹減ったのか、早く帰りたいのか…もしかしてまさかさっきの店で買って欲しいものがあったとか?可愛らしいキャラの文房具を欲しがる飛雄くんを想像して笑いをこらえていると、ふいに「千花」とひどく硬い声が耳に入った。慌ててそちらに向き直る。
飛雄くんは真面目な顔をして、しっかり私を見据えた。


「なに…?」
「………えの」
「え?」
「なんか欲しいもんとか、ねえのか」
「………?!」


突然何を言いだすのだろう。欲しいもん、って私の欲しいもの…もしかして買ってくれるのだろうか。そのために今日、ここへ連れてきてくれたのだろうか?
しばらくぽかんとしていたら、飛雄くんはちょっと気まずそうに、「そろそろクリスマスだろ」と続けた。…クリスマス、


「でも俺女子の欲しがるもんとかわかんねえし、…とりあえず聞こうかと」

クリスマス。そして私に贈るもの…それはつまり。

「…く、クリスマスプレゼント?」
「あーまあ…それ、だな」


なにやら照れている様子の飛雄くんが、視線を泳がせながらわずかに口先を尖らせた。繋いでいる手に徐々に力が込められる。
対する私の頬はあっという間に熱くなってしまった。
続けて飛雄くんは、「欲しくねえのもらっても迷惑だろ」と言いながら、私をそーっと見つめてきた。クリスマスプレゼントのことをちゃんと考えてくれていたことから既に嬉しい(勝手にだけど、飛雄くんは全然クリスマスとか気にかけてないと思ってた)のに、加えてやたら不安そうに私の反応をうかがってくるその様子に、なんだか私はしばらく何も言えなくなってしまった。…とりあえず何にだって直球なんだなぁ。何か、ふわふわした気分が、一気に溢れ出てしまいそうになる。


「……私、飛雄くんにもらえるなら何でも嬉しい、けど」
「!!
…そういうもんか…?」
「う、うん。そういうもんだよ」


本心からそう言って頷いてみせると、飛雄くんは見るからにほっとした顔をした。笑いかけると、飛雄くんは続けて口元にゆるく笑みを浮かべてみせてくれる。


「あ、じゃあ飛雄くんは、何かないの?」
「俺か?俺はべつに…なんでも」
「え。うわぁそれ困る…!」
「んだよ人のこと言えねえだろ、千花だって俺の質問答えてないのに」
「欲しいものは何か、ってやつ?」
「おう」
「えーでも私ほんとに、なんでも嬉しいよ」
「なんでもって何だ」
「それ私のせりふだって」


本格的にお腹が減ってきたらしい飛雄くんと共に適当なファミレスに入るまでそのやりとりは続き、結局何をプレゼントするかお互い決まらないままになってしまった。飛雄くんはちょっと不服そうだったけれど、どうせなら何をもらえるか楽しみにしておきたいというのが私の本音である。


「クリスマスは、」
「ん??」
「クリスマス当日は、部活あって多分、どっか行くとか無理だけど。前日とかならなんとかなると思う」


ハンバーガーをものすごい速さでぺろりと平らげてから、向かいに座る飛雄くんは、私にそう言った。


「なんか…え、飛雄くん忙しいのに」
「?だから何だ」
「いやその…クリスマスのこととか、まさかちゃんと考えててくれてるとは」
「………。まぁ、一応な」


楽しみにしてたの、知ってるし。そう続けられて、思わず動きを止めた私に、ふっと飛雄くんが笑顔をみせた。どうやら私の表情がおかしかったらしい。照れるより先につられて笑ってしまって、どこかくすぐったい雰囲気が漂う。


「どっか行きたいとこあるか?」
「いいの?私が決めても」
「俺はべつにどこでもいい」
「う、うわぁ困る…!」


選択肢ならいくらでもある。イルミネーションとか、映画とか…二人でこんな風に、ファミレスに寄るだけでも十分かもしれない。
その日のことを想像して、明らかにわくわくしだした私のことを、飛雄くんはびっくりするくらいやさしい瞳で見つめていた。
ーーーこの人と迎える初めてのクリスマスが、もう数週間後に迫っている。


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