※日向目線



正直言って、影山に彼女がいるとか、いまだに信じられていない。だって俺から見てもあいつはただのバレー馬鹿にすぎなくて、初っ端のあの最悪な印象からしてマトモに友達とか作れたりしていなさそうで、そりゃ女子がきゃーきゃー言ってるのは耳にしたこともあれけど彼女って。彼女ってなんだ。
しかも俺の知り合いとは。
二人は夏頃に付き合い始めて、秋も終わりかけの現在までで、もう大体4、5ヶ月くらいだ。あっと言う間だった。




「日向、お疲れ様ー」
「あ!原さんー!」


声のするほうを見れば、影山の部活が終わるのを待っているのであろう原さんの姿があった。中学時代からそれなりに親しい異性として仲良くしていたため、今でも気軽に話の出来る相手だ。


「影山ならもーすぐ出てくると思うよ」
「!そ、そっか…!ありがとうっ」


相変わらずちょっと照れている。結構経ったと思うのに、原さんを影山の恋人扱いするといちいち照れる。なんとなくそういうところは、らしくて面白い。


「おいボケ日向はやく…って」
「げ、影山」
「影山くん!」
「…っ、いだいいだいいだいいぃ」
「おー。どうかしたのか?今日はもうすぐ終わるけど…」
「えっとあの…なんかね、」


俺を呼びに現れた影山に、原さんは目に見えて嬉しそうな顔をした。影山は影山で、俺の知らない顔をしているように見える。…なんか、この空気、俺もしかして邪魔なのでは。ちょっとそわそわしてしまう。
どうやら何か事情があって、原さんはいつものように待ち合わせをして帰るわけにはいかなくなったらしい。影山の手を逃れ話を聞いているうち、原さんが待っていたすぐそばでひとつのカップルが修羅場を迎えているらしいことがわかった。さすがに居辛くなって、行き違いにならないよう影山の部活が終わる前にここへやってきたということだった。
影山は、なら仕方ねぇな、としばらくここで待つよう原さんに言った。原さんはこくりと頷く。俺はなんとなくその場にとどまった。
そして、この機会にと、原さんにある疑問をぶつけることに決めた。


「ねえ、原さん」
「うん?」
「影山のどこが好きなの?」
「えっ」


唐突すぎて驚いたのか、原さんは目を白黒させている。そしてうーんと考え込んだ。


「す、好きなところ?ってこと?」
「そうそう!あのおっそろしい影山の、どこが好きになって付き合いだしたの?」
「あはは、おっそろしいって…んー。え、でも、なんだろ」


考え込んだ結果、原さんが出した答えは「ぜ、ぜんぶってあり…?」だった。俺は以前影山にも同じような質問をしたことがあるのだが、…二人揃ってその回答かよ。脱力する俺に、原さんは申し訳なさそうに笑ってみせた。
お互い幸せそうだよな、となんとなく羨ましい気分にすらなる。


「日向は、誰かと付き合うとかないの?」
「つ、っつ付き合う…」
「好きな子がいる、とか」
「…うーん」


好きな子。好きな子。…よくわからない。
可愛いなとか、綺麗だなとか、そういうのはそりゃ思うことはあるけれど、それが”好き”とは違うというのは、さすがにわかってる。


「でも中学のときにはいたよね?あのなんか髪の短めのさぁ…」
「!?えっちょ、それはまたなんか別の話でっ」
「ふはっ、そんなに必死になんなくても」
「〜〜っ」


頬に熱が集まるのを感じる。原さんがさらに言葉を続けようとしたそのタイミングで、後ろから「さっさと帰り支度終わらせてこいよボゲが」とちょっと機嫌悪そうな声が投げつけられた。助かったが、なんかその言い方に腹がたつ。むっとして振り向けば、俺よりむっとした顔の影山がいた。…あーはいはい、


「ぷっ、影山クンはあれですか。嫉妬しちゃったんですか〜??」
「あぁ?!」
「よっ!…と、じゃあまたね、原さん!影山もな!」


影山の手を避け、俺は駆け出した。後ろで、ばいばいと言ったあと、原さんが「逃げられたー」と言って笑っているのが聞こえた。危なかった。…むかしの話には、恥ずかしいものが多い。
部室の階段を駆け上がると、むこうに歩いていく二人の姿が見えた。影山と原さん。特別べたべた腕を組むとかするわけでもなく、でもその距離はすごく近い。
それを見ていてだんだん、原さんと二人のときは「千花」とか呼んでみてるくせに、俺がいるからってさっき影山が「原さん」って呼んでいたのがちょっとむかついてきた。なんでかは、よくわかんないけど。
前にたまたま聞こえた程度だったけど、俺知ってんだぞ、お互いを名前で呼ぼうとしてるのなんて。


「…………」


二人の姿が小さくなっていく。最初こそむかっとしていたものの、徐々になぜかゆっくりと気持ちが和らいでいくのを感じた。

…たしかに、二人が付き合い始めた最初こそびっくりしたし、影山にいろいろ負けた気がして認めたくない気持ちが強かったけれど、結局のところなんだかんだと仲良しなこの二人のことが、俺は結構好きだったりするのかもしれなかった。
ーーーなんてことは、本人たちにはしばらく言わないでおこうと思う。


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