※11〜12話くらい


その日は昼前くらいに、適当な場所で待ち合わせた。
バスに乗って移動して、市内を二人でぶらぶら歩き回った。でも特になにかしたわけではない。自分の無計画性にはすこし反省。…ただ言い訳させてもらえば、俺は原さんと、いつもとはすこし違うところへ行くということだけでももう十分だったのである。

手を繋いで、これまでになく近い距離感で、並んで歩いてみたりした。恐らくあの祭り以来はじめてだった。
隣を歩く原さんは、たしかにこれまでに何度か私服姿も見たことがあったけれど、制服のときとはやはり雰囲気が違っていた。たまにはこういうのもいいのかもしれない、なんて思ったり。
半日ほどそんな、ちょっと新鮮な感覚を楽しんでから、俺と原さんは今帰りのバスの中である。窓の外はすっかりオレンジ色だ。


「結構歩いたけど影山くん、平気そうな顔してるね?」
「俺まあ、運動部だから」
「んー。なんか、いいなぁ…」
「原さんも入れば?」
「バレー部に?!」
「バレー部に」
「ムリムリムリムリ」


…あんだけ嫌そうに、体育の授業受けてるしな。そう思ってちょっと笑ってしまいながら、なんとなくバスの中を見回した。後方の二人がけの席に俺と原さんがいて、そんなに混んではいないけれどちらほら乗客の姿はある。
わずかに声を落としつつ、原さんと俺は先ほどから、わりと中身のない会話を続けていた。


「あ、そうそう!たまにさ、男子バレー部の先輩が、声かけてくれるようになったよ」
「先輩?田中さんとか?」
「田中先輩…はそんなにないかなぁ。縁下先輩とか、澤村先輩とかが、見かけたら挨拶してくれるんだよ」
「へー?」
「あと菅原先輩が、わざわざこないだ話しかけてきてくれて…」


話を聞くかぎり、俺を介してなにやら新しい人脈を築きつつあるらしい。そして原さんはそれが嬉しくてたまらないようだ。…俺としては、少々複雑なところではあるけど。ただいい先輩ばかりだから、原さんも楽しく話が出来るんだろうなと思い、なぜかちょっと誇らしいような。


「…、つーか、これで良かったのか?」
「え?」
「なんか、大したことしてねえし」
「?…あ、今日のこと?」
「おう」
「楽しかったから、全然いいよ?」
「!」
「というか、こういうのがいい。影山くんといろいろ話せるし…いつもの帰り道とかとはまたなんか、違うっていうか」


ふと投げかけた俺の疑問には、さらりとそう返された。そしてもちろん映画とか遊園地とかも行ってみたいけど、とこっそり呟くように付け加えて、原さんはすこし悪い笑みを浮かべた。…この人こんな顔もすんのか、と笑うのを堪える俺をよそに、原さんはなにやらあれこれ考えを巡らせているようだ。もしまた今度こういう機会があったら何をしたいかとか、たぶんそんな感じのことだと思う。

しばらく話をするのをやめて、まだわくわく顔で何か考えている原さんの様子を、横目でぼうっと眺めていると。
ふいに原さんが、あっと声をあげた。驚く俺に、カバンの中から取り出したiPhoneを慌てて差し出してくる。


「?!な、」
「バス、まだ着かないよね?!」
「お、おう」
「あのさ、影山くん!写真撮ろう?」
「写真?」
「そう!二人でっ」


二人でって、二人でってことか。ツーショットというやつか。…聞けば、ちょっと前から撮りたかったとのこと。
見れば原さんの頬が、さっきより確実に赤くなっていた。まあ二人で写真ともなれば、誘う側にはたしかに恥ずかしさがあるだろうな、と思う。
しかしそれでも、逸らさず俺を見据えるその目はどこか真剣だった。瞳がぶれない。余程一緒に撮りたいのだろう。…原さんは普段わりとゆるい人な割りに、どうしてもやりたいことに関しては頑固な部分がある。付き合うようになっても、いろいろ知らないとこが出てくるのだな、とちょっとびっくりした。
バスの中を見回せば、いつの間にか人はもういなくなっていた。


「…そりゃ、別に構わねーけど」
「ほんと!」


俺の返事が相当嬉しかったらしい。原さんのテンションがぐいっと一気にあがったのがわかった。

原さんがiPhoneを斜め上に構えると、その小さな画面の中に、照れたような顔をした二人の顔が映し出されたのが見えた。即座に身を引く。…なんだこれ、おい、ちょっと待て。


「ちょ、影山くん、それじゃ入んないよ?」
「っ、だけどっ」


今更ながら気づいたが。…もうこれ、くっつくとかいうレベルじゃねーじゃねぇか。手繋ぐのよりずっと、距離が近い。頬と頬が触れそうなくらい。
原さんも、今気づいたというようにはっとした顔をしたあと、さっきとは比べものにならないくらいかなり顔を赤くした。二人してぴたりと動きを止める。


「………」
「……っ…、か、影山くん」


お願いします、とちょっと申し訳なさそうに言われた。
ばくばく鳴る心臓に気づかれたくはないが、原さんのこの期待を裏切るわけにもいかない。

しばらくしてやっと覚悟を決め、ふわりと漂ってきた原さん独特の香りに心拍数があがるのを感じながらも、俺はなんとか無事写真を撮るのに成功した。
体が離れるなり、同じタイミングでほっとため息をつく。まだお互い慣れてないことが多すぎる、と思わず苦笑してしまう。


ーーーそれからバスを降りるまで、嬉しそうにその写真を眺めつづける原さんの表情は、たぶんこれまで見た中でもかなり嬉しそうなものだった。先輩たちの話をしているときとは全然違う、その緩みきった笑顔やふわりとした幸せそうな雰囲気に、なんとなく喜んでしまう自分がいた。


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