※夏休み前あたり



影山くんと二人で帰ることになっていた、ある日。前日の夜のメールで、帰り道の途中にちょっとだけ本屋に寄らせて欲しいと言われていた。ちょっとだけ帰路からは外れるけれど、だいたいの方向が同じところにひとつ、それなりに大きな本屋があるのだ。断る理由もなかったし、放課後のちょっとしたデートみたいですごくこのお誘いが嬉しかったので、もちろん私は「わかった!」と返信してある。


そして放課後。
並んで店内に入ると、ずらっと並んだ本棚が私たちを出迎えた。久しぶりに来たような気がする。
棚の間を縫うようにてくてく歩く影山くんについて、奥へと進む。


「悪い原さん、付き合わせることになって」
「ん?気にしないでいいよー。
…てか影山くん、何買うの?」
「欲しいマンガが」
「マンガ…!」
「?」


なんというか、バレー以外のことに興味を持ってるイメージがなかったから、ちょっとびっくりしてしまった。
ほどなくマンガの並べられているところにつき、影山くんはふらりと私のそばを離れた。すぐに目当てのものは見つかったらしいけれど、影山くんはなんだか他にもあれこれ見たそうに見える。


「しばらく待っとくから、私のことは気にしなくていいよ?」
「本当か?…じゃあちょっとだけ、」
「うんー」


私は私で、せっかく本屋に来たのだから他のところもいろいろ見て回りたい。それにずっと隣にいても、なんだかかえって気を遣わせてしまいそうだし。

ちょっと久々かも、と思いながら店内を歩く。そして、ちょうど雑誌のコーナーに来たときのことだった。


「え。千花じゃん」
「!?……え、あ!」


聞き慣れた声に振り向くと。そこにいたのは、数ヶ月ぶりに会う幼馴染だった。



***



この本屋でバイトをしているらしいこの男は、しばらく話をしているうちに今の彼女についての惚気を語りはじめた。まず他校だし、私はその子が誰かも知らないのに。…てかバイト中ではないのか。
しまりのない顔で、ナントカちゃんはさぁだの何だのと話す様子になんだか腹が立ってきて、私も彼氏できたよ、と遮るように言ってみたところ絶句された。驚いた顔を見ていると、なんとなく気分がいい。


「千花て人見知りじゃなかったか…?」
「…まあそれはそうだけど。でも誰にでもじゃないし、だいぶ最近はましになったし」
「それで彼氏か」
「それでっていうか」
「で、どんな奴だよ?」
「うーん、どんなって…。…あ、噂をすれば」


きょろきょろとあたりを見回しながら、向こうから歩いてくる影山くんを見つけた。しばらく見ていると、やがて向こうも私の姿を見つけたらしく、こちらに向かって来た。


「それじゃ、またねー」
「え。ちょ、紹介しろよ千花ー!!!」
「やだよ!バイトはやく戻れっ」


たたっと影山くんのほうへ駆け寄ると、影山くんはなんだか変な顔で私の後方へと視線を向けていた。そりゃそっか知らない人と喋ってたら不思議に思うよね、と思い慌てて私は口を開いた。


「あっえと、あれ私の幼馴染。ここでバイトしてるらしくて」
「………ああ、なるほど」
「うん。マンガ、もういいの?」
「欲しいの買えたし、もういい」
「そっか。私も欲しいのなかったし…じゃ、帰る?」
「おう」


ちょっとだけ、影山くんの表情がいつもと違う気がする。気のせい?いや気のせいじゃない、と思いながらもどうしたのかがわからなくてちょっと困ってしまう。
本屋を出てからも、なんだか影山くんはつんと前を向いたままで、あまり私に話を振ろうとしない。しばらくして、堪らず私は声を掛けた。


「あの、影山くん…?ど、どうしたの」
「?」
「いやなんかこう、怒ってる…?」


すると、びくっと肩を揺らして影山くんが立ち止まった。何やら変な汗をかいているように見えなくもない。思わず私は首を傾げた。


「私なんかしたっけ…」
「いや原さんじゃなくて!…てかこれたぶん俺の問題で」
「え?」


しばらくの沈黙、そして。


「……………名前、」
「名前?」
「いやなんでもないほんと今のは忘れてくれ」
「え?え」


なにやら影山くんの中で、何かが起きているらしい。いつものきりっとした表情はどこかへいき、険しいけれどすごく焦っているというか、なんだか複雑なカオをしている。
しばらくそうしていたけれど、影山くんは突然顔をあげた。


「今度行くときは別の本屋がいい。ちょっと遠いけど…」
「?べつに、それは全然いいけど、」
「!あざすっ」
「?!」


今度はちょっと嬉しそうな表情だ。
…影山くんがこの短時間でいろんなカオをしている。理由はよくわからないのだけれどそれがなんだか面白くて、私は思わず笑ってしまった。
それに。影山くんが、今度行くとき、と言っていたのがちょっと嬉しかったのだ。またこうして放課後、二人で寄り道して帰ることになるんだな、なんて。こんなことで喜べるとは私も大概だなぁ、と自分のことながら呆れる気持ちになる。

ーーそうして、いつまで経っても笑顔を引っ込めない私に、今度は影山くんが首を傾げる番だった。

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