京治くんとは、ひとつ学年が違う。私が一コ上。去年委員会が同じで、そこから親しくなった。仲のいい後輩、という感じだった。
そして三年生になって、木兎くんと知り合って仲良くなって。木兎くんはバレー部主将だから、京治くんについてよく知っている。ときおり木兎くんを介して京治くんと関わるようになってきてから、私と京治くんの関係には大きな進展があった。





[今ですか。眠いです]
「………ふ、」


帰宅してしばらくして、京治くんに[今なにしてるの]とLINEを送ってみたらすぐにそんな返事が来た。半開きの瞳でスマホをいじっている様子が頭に浮かんで思わず笑う。ごろごろ、とせまいベッドの上で動きながら、スマホの画面を頬を緩めて見つめた。
ーーーそう、私と京治くんはLINEで話の出来る仲になったのである。紆余曲折を経てここまで辿り着いた私の努力のことはご想像にお任せするけれど、とりあえずここまでこぎつけたわけだ。嬉しくてたまらなくて、だからこそ、やたらLINEを開いては京治くんの名前があるのを見るだけでもにこにこしてしまう私のことは、多少大目に見てほしい。

なんて返そうかなぁ、なんの話をしようかな、と悩んでいるあいだに、京治くんからさらに続きがきた。


[先輩、相変わらず暇そうですね]
「な」
[暇じゃないし!]
[へんなスタンプ…]


…いや、たしかに、よくLINEを送っているのは確かだから、暇そうって思われても仕方ないのかもしれない。しれないけれど、実際言われるとなんとなくショックだ。部活をばりばり頑張っている後輩に言われてしまうと余計に。
というか、うーん。こんなふうに言われるってことは、もしかして迷惑なのかも。それとなく、やめてほしいっていうメッセージだったり?遠回しな皮肉だったり?
そんなことを思い始めた矢先、


[まあ俺も暇なので、べつにいいですけど]
「!!!…け、」


京治くん!と思わず言ってしまいそうになる。全部見透かしたように(というか多分実際見透かしてるんだけど)、ちょうどいいタイミングでフォローをいれてくれるあたりが京治くんのすごいところだ。でもきっといま、画面を見つめる京治くんは真顔なのだろう。なんにしたって、さらりとあれこれやってのける彼である。


[ありがとう!!!]
[なんで喜んでるんですか]
[嬉しくて!]


すぐに、?というマークを頭に浮かべたキャラのスタンプが三つくらい送られてきて、思わず笑った。なんだろう、京治くんが使うと何か違う感じがする。なんかパンダみたいなそのキャラに、自然と頬がゆるんでしまう。
ーーー私はふとそこで、今日絶対京治くんに言わなくては、と決めていたことを思い出した。


[てか京治くん、こんど試合あるんだよね?]
[あーあります 木兎さんからきいたんですか?]
[そうー 赤葦を見に来い!ってさ]
[来るんですか?]
[行ってもよければ、なんだけど、]
[木兎さんうるさいですけどね 俺は全然いいですよ、応援よろしくお願いします]
[うん!]
「…うーん」


そりゃ応援ならいくらでもするけれど。
ただ私、バレー部の応援に行くだなんて今回が初めてなのだ。それなりに勇気を振り絞っての決断である。…でもいまいち、京治くんが喜んでくれているのかわからない。画面越しだからわかりづらいってのもあるのだろうか。どうしても喜んでほしいってわけじゃないけど、それでもやっぱりすこしくらい、きてほしいって思ってもらえてないかなあ、なんて。
…なんだか、京治くんにとっての”仲のいい先輩”という位置を、私は全然抜け出せていないような気がした。出会ってだいぶ経つのに。いやむしろ仲のいい人って思われているのかすらもたまに不安になるけど、それはそれだ。
とにかく、先輩後輩の関係はすごく固い。どうしてもそこどまりな気がする。できるだけ自然に切り出そうとか、どんな反応されるかなとか、そんなことを思ってどきどきしていた今日の午後2時ごろの自分がいたたまれない。
ーーーもうこれで、今日は会話をやめてしまおうか。
あれこれ考えを巡らせた後なんだか気分が萎んでしまった。京治くんと絡んでいるときだけのあのどきどきだとか、やけにふわふわする感覚とか、そういったものが全部体から抜け落ちていくような感じだった。

LINEを閉じる。スマホを伏せて、勝手にしょんぼりしてじっとしていた私の耳に、ふとちいさく通知音が聞こえた。


[あの、名前先輩]
「…?」


しばらく待ったけれど、そこから何も続きがこない。どうしようか迷ったけれど、[どしたの?]と送ってみる。すると。


[先輩、彼氏とかいるんですか]
[え!?いないいない]
[好きな人は?]
[んー好きな人はいる、一応]


そこでしばらく時間があいて、


[例えばの話なんですけど、]

[だれかこう、後輩に告白されたらどう思いますか。]
「!!!?」


思わず私は指を止めた。何度も、送られてきたそれを見直す。さっきは彼氏いるかとか聞かれてびっくりしてたけど、今ちょっとそんなもんじゃない。…見間違いじゃない。
私だってそこまで鈍いつもりはない。そりゃ、まだそうだとは言い切れないけれど、でもだってこの流れ。(これでもし友達の話なんですけどとか言われたら、もう恥ずかしすぎてどうしようもないけど。)
京治くんはもしかしたら、今から、私に。
そんな、行き過ぎた期待が妙な確信に変わったころ、またちいさく通知音が鳴る。


[まあこの先は直接言います]
「え、直接?……うわ!?」


突然画面に表示された、京治くんの名前に心臓が跳ね上がった。どうやらLINEでの電話を使うつもりらしい。ーーー待って待って待って、心の準備が全然出来ていない。なんでこんなに突然なの。ばくばくと心臓の音が加速していく。どうしよう、どうしよう。とりあえず起き上がって姿勢をただしたものの、指が震える。
しかしちゃんとこの電話に出なければ、京治くんの言う”この先”を聞くことは出来ない。
恐る恐るスマホを耳にあてた。


「…………もしもし、」
「好きです」


間髪入れずに、トーン低めの声が耳元で聞こえた。なんと言ったらいいかわからない、でも何か言わなくちゃいけない。頭がぐるぐる回って、口をぱくぱくさせるしかない私に、まるでそれがわかっているかのようにわずかに京治くんは笑った。…笑ったのだ。


「返事は明日聞きます。考えてみててください。…今度の応援も、楽しみにしてます」


ちょっと慌てたように最後の言葉を続けて、おやすみなさいと京治くんは電話を切った。かろうじて、おやすみとは返したものの、私は何も言えなかった。急激に熱をもちだした頬をおさえながら、先ほどのやりとりを振り返る。

…京治くんが。好きですって言った。私を。
そして私が応援に来ることを、楽しみにしてくれて、いる。
それだけでもなんだかもう幸せで、いっぱいいっぱいで、私はベッドに勢いよくばたりと倒れこんだ。

ーーーおやすみとは言ったものの、今日はしばらく眠れそうにない。胸がきゅうっと締め付けられるような感覚とともに、私は明日のことを思った。



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